役所のDXはなぜ難しいのか?(写真はイメージです) Photo:PIXTA役所のDXはなぜ難しいのか?(写真はイメージです) Photo:PIXTA

日本の役所には「自分たちは間違えてはいけない、間違わないために前例を踏襲する」という考えが浸透している。実際には日々テクノロジーの進化によって、より良いモノや手法が生まれているのに、「間違ったことをしてはいけない」という概念にとらわれすぎて、前例踏襲主義から抜け出せない。そんな行政を変える動きが、少しずつだが生まれている。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

牧島かれんデジタル大臣が語った
「無謬性神話からの脱却とアジャイル」とは

「無謬(むびゅう)性神話からの脱却」

 牧島かれんデジタル大臣は、柔軟に政策の見直し・改善を行っていく「アジャイル型政策形成・評価の在り方に関するワーキンググループ」の立ち上げに際し、そう語った。

 無謬とは、理論や判断に間違いがないこと。日本の政府や官僚組織には無意識のうちにこの無謬性神話にとりつかれている人が多い。自分たちは間違えてはいけない、間違わないために前例をきちんと守る……。

 一方、アジャイルとは、「仕様や設計には変更がある」ということを前提に、最初から厳格な仕様を決めず、より良い姿を目指して臨機応変に形を変えていく開発スタイルだ。初めに仕様を決め、決められた工程を順に進めていくウォーターフォール型と比較して、市場環境やニーズの変化に柔軟に対応できるとして、取り入れる企業も増えている。

 行政で働く人たちにも「本当はこうしたい」という思いがある。しかし、「間違ったことをしてはいけない」という概念にとらわれすぎて、前例踏襲主義から抜け出せない。リスクを取って変えたところで、失敗したら評価が下がる。時には建設的とは言えない批判に日常業務が圧迫されることもある。重要な決断が先延ばしにされ、新型コロナのような緊急事態での対応を遅らせる元凶は、無謬性を追い求めるがゆえの硬直した考え方にある。

 時代の流れは速く、複雑性も増している。まずはスピード感を持って政策を投入し、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング:証拠に基づく政策立案)に則って早い段階で見直し、改善を重ねていくこともできるのではないか。