ダライ・ラマ、ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、オードリー・タンなどの同時通訳を務めてきた田中慶子さんが、日常やビジネスで役立つ「生きた英語」をやさしく解説!「リスキリングとして、英語学習を考えている」社会人は多いですが、一方で、注意しなければいけないことがあります。今回は、英語の「知識」を「スキル」に転換するための3つのポイントをお伝えいたします。(同時通訳者 田中慶子)
たとえ知識はあっても使いこなせなければ
「スキル」とは呼べない
「スキル」とは一体、何だと思いますか?
英単語の「skill」を『リーダーズ英和辞典』(研究社)で調べてみると、「熟練」「巧みさ」「技」「技術」といった言葉が並んでいます。また、「skill」という言葉は、12世紀終わりごろには、「識別する力」や「実現する力」などの意味で使われていたという記録が残っています。
「skill」はカタカナ英語の「スキル」として、日本語の中でも日常的に使われていますが、カタカナ英語の「スキル」の意味も英単語同様に、「実践として使える力」というニュアンスを伴います。たとえば、「英語スキル」のように使うときは、「英語の文法や語彙(ごい)に関する知識がある」だけではなく、「実際に英語を使いこなすこともできる」といったイメージです。
英語のコーチングをしていると、「TOEICで高スコアを取ったけれど、英語を話すことはできないんです」といったご相談を受けることがあります。これは、勉強した成果として、テストで高スコアを取るだけの知識はあるものの、実際に英語を使い込むという経験が足りないため、「スキル」にはなっていないという状態です。
テストで評価できるのはあくまで「知識」です。「一生懸命に勉強して知識を得たこと」は、点数として数字で測ることができても、「その人が実際にどのくらい英語を使いこなせるか」までは、テストで測れるものではありません。テストで高得点を取ったからといって、必ずしも英語が話せる状態ではないというのは、ある意味、当然のことなのです。
先述の、(「実践として使える力」というニュアンスを伴った)「スキル」という言葉の意味に照らし合わせてみると、たとえ「知識」はあっても、経験を積んできちんと使いこなすことができなければ、「スキル」とは呼べないということです。
このような「スキル」に、「re-(再び)」という意味の接頭辞がついた、「リスキリング」という言葉が最近、注目されています。
時代の変化のスピードが加速し、また、「人生100年時代」と言われるようにもなり、新しいスキルを身につけたり、既存のスキルをアップデートしたりする必要性を、多くの人が感じているはずです。
そのような中、「リスキリングとして、英語学習を考えている」という相談を受けることがあります。英語は汎用性が高く、キャリアアップにも役立ちそうなので、習得したい人も多いのかと思います。英語学習の目標として、TOEICやTOEFLの高スコアを掲げる人は少なくありません。転職や昇進の条件にTOEICの点数を設ける会社もあるので、理にかなった目標設定だと思います。
一方で、注意しなければいけないことがあります。