安倍晋三元首相による「日本銀行は政府の子会社」発言が波紋を広げている。安倍氏の発言は、比喩としては間違っていない。だが、元首相である政治家としては、いささか大人げなかったのではないか。この発言の真意を探るとともに、「親会社としての日本政府」を採点してみよう。(経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
サラリーマン常識的に判断すると
日銀は「政府にコントロールされた子会社」
安倍晋三元首相は5月9日、大分市で行われた会合で「日本銀行は政府の子会社だ」という趣旨の発言を行った。これは、世間を少々ざわつかせた。「日銀の中央銀行としての独立性を否定するとんでもない発言だ」との批判もあれば、「実質はそうに違いない」と理解を示す向きもあった。
世の中には、実質はそうなのだけれども口にしない方がいい発言が幾つかある。今回の安倍氏の発言もその類のものの一つだった。
中央銀行たる日銀は、独自に金融政策を判断する組織であり、政府の言いなりになるような存在ではないという「フィクション」には、日本の経済政策や通貨の価値に対して一定の信頼性を与える役割がある。加えて、日銀職員のプライドにも関係しよう。
例えば、政府が人気取りのために財政支出を拡大し、金利を下げて株価や地価を上げたいと思ったとする。しかし、日銀がインフレに問題がある、あるいは資産価格がバブルだと判断した場合、日本の通貨価値や金融システムの安定性を守るために、政府の意向に反してでも金融引き締め(政策金利の引き上げ)を行う可能性がある。このような仮説上のストーリーがこのフィクションのありがたみだ。これは、あえて否定せずともよい。