インベストメントバンカー M&A請負人の正体#10Photo:Witthaya Prasongsin/gettyimages

大型M&Aの陰の主役といえば、野村證券や三菱UFJモルガン・スタンレー証券といった投資銀行だ。しかし近年の国内M&Aのリーグテーブルにおいて彼らに迫る勢いで上位に浮上し、異彩を放つ存在がある。独立系評価機関のプルータス・コンサルティングだ。投資銀行ではない彼らがなぜ今、日本のM&A市場で存在感を増しているのか。長期連載『金融インサイド』内の特集『インベストメントバンカー M&A請負人の正体』の#10で、その深層を解き明かす。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

三菱食品で「数十円刻み」の攻防
買収価格巡り特別委員会が異議!

「少数株主の利益に配慮したものとは到底いえない」

 2025年5月、三菱商事が三菱食品を完全子会社化するに際し、TOB(株式公開買い付け)の開始を公表した開示資料には、三菱商事側と三菱食品の「特別委員会」の間で繰り広げられた、合計12回にわたる価格交渉の顛末が記されている。

 当初、三菱商事が提示した価格は5200円。これに対し、社外取締役らで構成される特別委員会は冒頭の理由で一蹴した。

 その後、100円、数十円刻みの熾烈な刻み合いが1カ月以上にわたって続く。交渉が10回を超えてもなお、特別委員会は対面協議の場で「依然として賛同致しかねる」とさらなる引き上げを要求。最終的に当初提示から1140円(約22%)の上乗せとなる6340円をもぎ取ったのだ。

 特別委員会とは、親子上場解消やMBO(経営陣による買収)など、構造的に利益相反が起きやすい取引において、少数株主の不利益を避けるために設置される組織だ。

 かつては実務に慣れた弁護士や会計士が第三者として形式的に名を連ねることも多かったが、19年に経済産業省が策定した「公正なM&Aの在り方に関する指針」以降、その位置付けは激変した。現在の主流は、企業のビジネスを熟知しつつも執行部からは独立した社外取締役が委員の核心を担う形態だ。

 三菱食品の事例は氷山の一角にすぎない。

 ある投資銀行幹部は「今は案件成立の難易度が格段に上がった。特に特別委員会との交渉はディール全体の成否を分ける最大の急所だ」と明かす。日本のM&A市場は25年に取引総額50兆円を超える膨張を見せたが、その裏側で「手続きの正当性」を査定する特別委員会の重要性は、かつてないほど高まっている。

 そうした中、投資銀行の独壇場だったM&A助言市場で、存在感を増しているのがプルータス・コンサルティングだ。25年のM&A取引額を合算したリーグテーブルで、名だたる大手を抑えて前年の10位から5位に急浮上した(本特集の#1『トヨタ・NTT・ソフトバンクG巨大再編の陰の主役!「投資銀行」の最新序列、M&A50兆円市場急拡大で熾烈な人材争奪戦が勃発』参照)。

 投資銀行ではない彼らが躍進した理由は何か。その背景には、東京証券取引所のルール変更や「ファミマ・ショック」と呼ばれる事案を経て激変したガバナンスの新潮流がある。次ページで明らかにする。