岡藤正広・伊藤忠商事社長Photo:JIJI

マーケットインと
イニシアチブ

 伊藤忠会長の岡藤正広は、伊藤忠パーソンがやるべき仕事とは「マーケットインとイニシアチブだ」と言っている。

「商人はマーケットインが大切だ。要はご用聞きでなくてはいかん。

 たとえば、最初は豆腐を仕入れてお客さんに持っていく。そのうち、お客さんが豆腐以外にしょうゆも持ってきてくれないかと言ったら、どこかで買って持っていかなくてはいけない。商品の間口を増やしていくことで、自分たちも成長する。

 それなのに、『すみません、うちは豆腐屋ですから豆腐しか売ってません』と言ったら、すぐにつぶれる。プロダクトアウトの思想じゃいかん。自分の持っている商品を売るだけの商社は大きくならん。

 ただ、商社は組織が縦割りだ。マーケットインをやろうとしても弊害があった。ディーン・アンド・デルーカを日本に持ってこようと思った時、『それは食料部の仕事だ』という人たちの考えを変えさせるのに僕は苦労した。だが、伊藤忠では縦割りはなくなりつつある。第8カンパニーがいい例や。

 もう一つ大切なのが、イニシアチブを取ること。メーカーの販売代理店ではいけない。メーカーの言いなりではいけないんだ。とにかく商流のイニシアチブを取る。

 では、何をすればいいのか。僕が繊維部でやったのがブランドだ。ブランドを持つことによって、マーケットのなかでイニシアチブを取ることができた。

 要するにイニシアチブとは商社が主導権を握ること。企画でもいい、強力な商品でもいい。それを考えるのが商社の人間である。マーケットインとイニシアチブ、この二つは商社が発展する原動力だ」

 消費者の立場になってイノベーションを考えることがマーケットインであり、イニシアチブを握れば独占に近い立場となり、肥沃(ひよく)な市場の創成者になることができる。

 営業に出たての岡藤がやったことは、正しくこの二つだった。