初の著書『伝わるチカラ』(ダイヤモンド社)を上梓したTBSの井上貴博アナウンサー。実はアナウンサーになろうとは1ミリも思っていなかったというのだが、一体どのようにして報道の第一線で勝負する「伝わるチカラ」を培ってきたのだろうか?「地味で華がない」ことを自認する井上アナが実践してきた52のことを初公開! 人前で話すコツ、会話が盛り上がるテクなど、仕事でもプライベートでも役立つノウハウと、現役アナウンサーならではの葛藤や失敗も赤裸々に綴る。
※本稿は、『伝わるチカラ』より一部を抜粋・編集したものです。

【TBSアナウンサーが教える】立ち上がれないほど徹底的に打ち負かされた仕事

精神的にどん底の状態を経験

【前回】からの続き

『朝ズバッ!』は、私がメインになってから半年で幕を閉じることになりました。言わば、リングにタオルを投げ入れられたようなもの。終了の責任は、番組の顔だった私にあります。

当時は、みのさんがイチからつくり上げた番組を私が終わらせてしまったという喪失感と絶望感が強く、精神的にはどん底の状況でした。そんな私に追い打ちをかけるかのように、次に待っていた仕事は同じ時間帯にスタートした情報番組『あさチャン!』(2021年まで平日朝に生放送)のアシスタント。メインMCである夏目三久さんをサポートする役回りです。

徹底的に打ち負かされた

正直なところ、にわかには受け入れがたい仕事でした。私には『朝ズバッ!』で、立ち上がれないほどに、徹底的に打ち負かされたという自覚がありました。にもかかわらず、同じ時間帯で仕事を続けろというのです。視聴者に合わせる顔もありませんし、自分の心の整理もつきません。

しかも、メインMCは奇しくも同期のアナウンサー(日本テレビ→フリー)の夏目三久さん。あまりに酷な役回りです。しばらく逡巡しましたが、会社員である局アナとして、わがままはできないと思い直しました。

一歩踏み出さないと何も始まらない

結局、『あさチャン!』には1年間出演し、その後、『白熱ライブ ビビット』(のちに『ビビット』に改題し、2019年まで平日朝に生放送)の立ち上げにかかわることになります。そして、2017年にオファーを受けたのが、『Nスタ』のメインMCです。

当初は、自分が報道番組にかかわるとは、夢にも思っていませんでした。報道番組のMCは他局からフリーになったベテランを起用するもの、という思い込みがあったので、『Nスタ』からのオファーは寝耳に水でした。

そこで思い出したのは、『朝ズバッ!』での最後の半年の経験です。あの経験から学んだのは、自分がMCにならないと何も始まらないということでした。私は局アナがMCを務める番組を増やしたいという使命感を持っていました。だから思い切って報道番組に飛び込むことにしたのです。

※本稿は、『伝わるチカラ』より一部を抜粋・編集したものです。

井上貴博(いのうえ・たかひろ)
TBSアナウンサー
1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部に進学。2007年TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2010年1月より『みのもんたの朝ズバッ!』でニュース・取材キャスターを務め、みのもんた不在時には総合司会を代行。2013年11月、『朝ズバッ!』リニューアルおよび、初代総合司会を務めたみのもんたが降板したことにともない、2代目総合司会に就任。2017年4月から、『Nスタ』平日版のメインキャスターを担当、2022年4月には第30回橋田賞受賞。同年同月から自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタート。同年5月、初の著書
『伝わるチカラ』刊行。