初の著書『伝わるチカラ』を上梓するTBSの井上貴博アナウンサー。実はアナウンサーになろうとは1ミリも思っていなかったというのだが、一体どのようにして報道の第一線で勝負する「伝わるチカラ」を培ってきたのだろうか?「地味で華がない」ことを自認する井上アナが実践してきた52のことを初公開! 人前で話すコツ、会話が盛り上がるテクなど、仕事でもプライベートでも役立つノウハウと、現役アナウンサーならではの葛藤や失敗も赤裸々に綴る。

【TBSアナウンサーが教える】意表を突かれて頭が真っ白になったアナウンサー試験のお題目とは?

「30秒間、日本の名所でしりとりをしてください」

【前回】からの続き

印象的な演出は、TBSの試験でも経験しています。

それは、当時放映していた『はなまるマーケット』のスタジオセットを使い、土井敏之アナウンサーが進行役となって、私がインタビューを受けるという形式の面接でした。インタビューが一段落し、そこそこ受け答えできたと安堵していたところ、急にスタジオが暗転し、目の前が真っ暗になりました。

えっ、何だ? 真っ暗になったぞ……。

驚いていると、急にピンスポットのライトが光り、視線の先にはいつの間にかお立ち台がしつらえてあります。あっけにとられている私を、土井アナウンサーが促しました。

「井上君、お立ち台へどうぞ」

スタジオ内はシーンとして、物音一つ聞こえてきません。緊張しつつお立ち台に立つと、思わぬお題を投げかけられました。

「では、これから30秒間、日本の名所でしりとりをしてください。はい、どうぞ」

しりとり? 日本の名所? 頭が真っ白になりました。とにかく何か口にしなければ。そのとき関西出身の両親の影響でしょうか、なぜか京都の金閣寺が頭に思い浮かびました。

「……金閣寺」

発した瞬間に「じ?」と思ったのですが、あとの祭りです。すっかり混乱している私に「じ」がつく名所なんて思いつきそうにありません。

頭のなかの引き出しを次々に開けてみるものの、あとに続く言葉が出ないまま、時間だけがすぎていきます。

すると、急にすべてが愉快になってきました。言葉が出てこない焦りを超越して、自分が置かれている状況が面白くて仕方なくなったのです。

この人たち、最後にこんな演出と問題を用意していたのか。すごいな――。

感動のあまり吹き出してしまい、残りの25秒間はただただ笑っていました。もはや評価はどうでもよくなり、ニコニコしたまま試験は終わりました。

【次回に続く】

井上貴博(いのうえ・たかひろ)
TBSアナウンサー
1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部に進学。2007年TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2010年1月より『みのもんたの朝ズバッ!』でニュース・取材キャスターを務め、みのもんた不在時には総合司会を代行。2013年11月、『朝ズバッ!』リニューアルおよび、初代総合司会を務めたみのもんたが降板したことにともない、2代目総合司会に就任。2017年4月から、『Nスタ』平日版のメインキャスターを担当、2022年4月には第30回橋田賞受賞。同年同月から自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタート。同年5月、初の著書『伝わるチカラ』刊行。