学校や企業内の「橋渡し」役が、これからのダイバーシティ社会を推進する

学生をはじめとした若者たち(Z世代)はダイバーシティ&インクルージョンの意識が強くなっていると言われている。一方、先行き不透明な社会への不安感を持つ学生も多い。企業・団体はダイバーシティ&インクルージョンを理解したうえで、そうした若年層をどのように受け入れていくべきなのだろう。神戸大学で教鞭を執る津田英二教授が、学生たちのリアルな声を拾い上げ、社会の在り方を考える“キャンパス・インクルージョン”――その連載第4回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

* 連載第1回 「生きづらさを抱える“やさしい若者”に、企業はどう向き合えばよいか」
* 連載第2回 ある社会人学生の“自由な学び”から、私が気づいたいくつかのこと
* 連載第3回 アントレプレナーの誇りと不安――なぜ、彼女はフリーランスになったのか

人々の間の「違い」から豊かな文化を創り出すために

 海外に出かけていって、世界の息吹を感じる。大学生たちに、そういう学びの機会があることは、とてもよいことだ。私の勤務している神戸大学国際人間科学部の学生たちは、海外で学ぶことを卒業要件として課されている。学生たちにとって、世界はずいぶん身近になってきている。

 コロナ禍で中断しているが、私自身、アメリカと韓国にそれぞれ隔年で学生たちを連れていく“スタディツアー”を企画・運営している。普通の海外旅行では出会うことはないだろうと思われる人たちと濃密なコミュニケーションをとるスタディツアーである。

 アメリカでは、さまざまな理由で他者との関わりを失って家にひきこもる人たちに対し、社会関係を結び直すきっかけをつくる活動に参加する。私たちがお世話になる団体は、街中に会場を設営して、歌ったり踊ったり、しんみりとポエムの朗読を聴いたりするパーティーを開き、社会的に孤立した老若男女を招待する。学生たちはこの人たちの輪の中に入れてもらい、楽しいパフォーマンスを披露するなどして交流するとともに、いろいろな人たちの身の上話や生活の困難についての話を聞く。仲良くなった白人の中年男性のひとりは、仕事中の事故で大けがを負い、それが原因となって失職し、家族からも見放され、自暴自棄になってホームレスになった過去について語ってくれた。そんな中で生きる希望を与えてくれたのがこの団体なのだという話を聞き、学生たちは参加したパーティーの深い意味を知るのである。

 団体の代表者である社会事業家のダニエルは、スキンヘッドと長い髭がトレードマークの大男だ。ダニエルが支援をしている人の多くは、社会的に孤立していて、お互いに元気を分かち合う仲間もいない。孤立の原因はさまざまだが、何らかの障がいが原因に関わっているケースがほとんどだ。孤立を生み出す状況を改善しようと試行錯誤をした末にたどりついたのが、現在の活動だ。パーティーの他に、ビデオゲームを楽しむグループをつくったり、ポーカーを楽しむイベントを開いたりもする。私たちが訪問したときも、日本人の学生と交流するイベントを開いてくれて、たくさんの人たちが集まってきた。

 これらの活動は、多くの市民によって支えられている。その市民の中には、かつて社会的に孤立していて、ダニエルたちの活動への参加をきっかけにして立ち直った人もいる。ダニエルたちが行っているのは、孤立した人たちに寄り添い、社会につなぐ「橋渡し」の活動なのだ。

 アメリカ社会には、人々の間にある「違い」をめぐって対立してきた歴史があり、また、その対立を解消しようとしてきた努力の歴史がある。このスタディツアーでは、学生たちは、アメリカ社会の激しいダイナミズムを感じると同時に、「違い」から豊かな文化を生み出していく地道な実践の尊さを感じる。多様な人たちによって構成されるグローバルな社会では、「違い」をめぐって起こるぶつかりあいは避けがたい。しかし、「違い」をうまく「橋渡し」することによって、豊かな文化がつくりだされていくのだということを、学生たちは体験的に学ぶのである。

 グローバルな社会に卒業生を送り出していく大学には、人と人とを「橋渡し」することのできる人たちを育てたり、調整の現場で豊かな文化を創る担い手になる人たちを育てたりする役割が課されていると思う。今回は、学生たちが身近に多様性を学ぶことのできる可能性をもつ教育現場に焦点を当てる。海外に行かずとも、「橋渡し」を実践的に学ぶ機会はある。