多くの企業が取り組む「ESG経営」。社会での重要性は高まっているものの定着しているとは言いがたい。しかし、すべてのステークホルダーの利益を考えるESG経営こそ、新規事業の種に悩む日本企業にとって千載一遇のチャンスなのである。企業経営者をはじめとするビジネスパーソンが実践に向けて頭を抱えるESG経営だが、そんな現場の悩みを解決すべく、「ESG×財務戦略」の教科書がついに出版された。本記事では、もはや企業にとって必須科目となっているESG経営の論理と実践が1冊でわかる『SDGs時代を勝ち抜く ESG財務戦略』より本文の一部を抜粋、再編集してお送りする。
ESGとCSRの違い
――ESGに似た言葉としてCSRという言葉があると思います。企業によっては両者を同じ文脈で扱っているところもありますが、違いはあるのでしょうか。
たしかに一般的には、ESGもCSRも社会貢献のイメージが強いようで、両者の違いがよくわからないといった声を聞くことが少なくありません。特に、CSR活動に熱心に取り組んできた企業にとっては、その傾向がなおさら強いように見えます。
結論からいえば、ESGとCSRは根本的に違います。環境・社会課題が影響を与える消費者、取引先、地域社会、環境などさまざまなステークホルダーの利益を考慮し経営判断を行うという意味においては両者に共通点を見出すこともできます。
他方、両者は次の点において決定的に異なります。それは、CSRが環境・社会課題の解決は企業にとって経営課題の中心ではありませんが、ESGは環境・社会課題の解決が経営課題のど真ん中に据えられます。
CSRが想定する世界は、企業は環境や社会に負荷をかけながらビジネスを行う存在であるとの基本的な前提に立ちます。そのうえで、美術展やイベントへの協賛といった文化活動、植林や海岸の清掃などの環境保護活動を通じて企業の利益の一部を社会に還元します。
いってみれば、環境・社会に負荷をかけながら儲けていることに対する贖罪行為・免罪符として、利益の一部を使ってCSRを標榜しています。
ESGはそもそもの発想が違う
これに対して、ESGは、本業のビジネスを通じて環境・社会課題を解決する世界観であり、企業は課題解決と自社の利益の両立を実現します。
したがって、CSRは株主の利益と株主以外のステークホルダーの利益の間にトレードオフが生じてしまいます。まさに、ミルトン・フリードマン氏がCSRを厳格に戒めたとおり、企業がCSR活動に熱心に入れ込むほど株主利益は毀損します。
株主に報いることを求められる株主第一主義のもとでは、CSRは一時的なブームやファッションにこそなれてもサステナブルな広がりを見せることはありませんでした。
ESGはCSRとは発想が異なっており、環境・社会課題を本業のビジネスを通じて解決することこそ長期的な株主価値を向上するという、環境、社会、経済を高度に統合したフレームワークです。環境・社会課題を解決できたとしても長期的な株主価値が向上しなかったら、それはESGの世界で評価される会社にはならないのです。
ESGと通底するステークホルダー資本主義の議論をすると、消費者、取引先、従業員、地域社会、環境といったステークホルダーを満足させることができれば結果的に株主への利益還元が減ってしまってもしかたないと考える向きもあります。
しかし、それはまったくもって誤解です。ESGやステークホルダー資本主義というのは、株主以外のステークホルダーを満足させたうえで、さらに、今までどおり株主のリターンも同時に上げることにほかなりません。そのため、ステークホルダー資本主義は、ある意味、株主第一主義より野心的な使命であるともいえるのです。
本記事は『SDGs時代を勝ち抜く ESG財務戦略』より本文の一部を抜粋、再編集しています。