米国もユーロ圏も8%を超えるインフレに苦しんでいる。FRBもECBも急速な金融引き締めにかじを切るが、インフレ抑制のためには景気を犠牲にすることは避けられそうにない。(ダイヤモンド編集部 竹田孝洋)
米国のインフレはもはや景気減速と
労働需給緩和なしに抑制できない
米国と欧州にスタグフレーション(景気後退下での物価高)の影が忍び寄りつつある。
FRB(米連邦準備制度理事会)は、6月15日に政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利を通常の3倍の幅である0.75%引き上げた。0.75%の引き上げは1994年11月以来だ。FRBが事前に予告していた0.5%を上回る上げ幅となった。
その原因は6月10日発表の二つの経済指標にある。一つは、ロシアのウクライナ侵攻による資源価格や穀物価格の高騰と労働需給の逼迫による賃金上昇があり、5月のCPI(消費者物価指数)上昇率が前年同月比8.6%と40年5カ月ぶりの高い伸びとなったこと。そして、米ミシガン大学の消費者調査による5年先の期待インフレ率が、3.3%と2008年6月以来の高水準を付けたことだ。
足元のインフレ高進、消費者の期待インフレ率の高まりを目の前にして、FRBは前言を翻してでも利上げ幅の拡大に動かざるを得なかった。
FRBは今後も利上げペースを加速する。今回のFOMC(米連邦公開市場委員会)におけるFF金利、GDP(国内総生産)、失業率などについてのFOMCメンバーの見通し(ドットチャート)の中央値を掲載したのが下表である。前回3月の数値と比べると、FF金利の見通しが大幅に引き上げられた。22年末が1.875%から3.375%、23年末が2.75%から3.75%にそれぞれ上方修正された。
パウエル・FRB議長は「7月会合では0.5%、または0.75%のいずれかの利上げになるだろう」と発言しているが、FF金利の先物市場の動向から、市場が織り込んでいる利上げ確率を算出するFedWatch(次ページ二つ目の図参照)を見ると、7月会合では0.75%の利上げの確率がほぼ100%となっている。12月会合では90%弱の確率で、FF金利はドットチャートを0.25%上回る3.625%(中央値)にまで引き上げられるとみられている。
いずれにしても、景気を刺激も冷やしもしない中立金利とされる2%台半ばの水準を大きく上回る。米国のインフレは、景気を減速させ労働需給を緩和することなしには、もう抑制できない。
問題は、インフレ抑制のために必要な利上げ幅、景気減速幅がどうなるかだ。