現代は、「課長」受難の時代だ。メンバーの価値観の多様化、働き方改革への対応などに加え、リモートワークへの対応という難問まで加わった。しかし、これを乗り越えれば、新たな「課長像」=「課長2.0」へと進化できる。そう主張する『課長2.0』がロングセラーとなっている。著者は、『社内プレゼンの資料作成術』などのベストセラーで知られる前田鎌利氏。管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなもの。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんなマネジメント手法について、ソフトバンク時代に管理職として目覚ましい成果を上げた経験を踏まえて書かれた内容に、SNSなどで「管理職として勇気づけられた」「すぐに実践できるヒントが詰まっている」と共感の声が寄せられている。本稿では、本書では言及できなかった、「上層部から納得しがたい指示をされたとき」の対処法について解説する。(構成/前田浩弥)
経営陣の決定に納得できないとき、どうするか?
課長は中間管理職です。中間管理職であるからには、経営陣の方針に従わなければなりませんし、その方針をメンバーに徹底させる必要があります。
しかしときには、個人として、経営陣の決定に納得がいかない場合もあるでしょう。
仮に、自身の日頃の言動・方針に反する決定が下されたとしたら、唯々諾々と従うのは抵抗がありますし、そのような姿はメンバーからの不信にも繋がりかねません。それでは、経営陣の決定をチームに徹底させるのも難しくなるでしょう。かといって、感情のままに経営陣に楯突くわけにもいきません。
そんな局面で、課長はどのように考え、どのように動けばよいのでしょうか。
上司と向き合って、納得できるまで話を聞く
まず、当然のことですが、直属の上司(部長など)としっかりと向き合って、経営陣の意思決定の意図を確認し、納得いくまで話を聞く必要があります。経営陣は課長よりも多くの情報をもち、高い視座でモノを考えていますから、多くの場合、経営陣の真意を理解すれば納得できるものです。
絶対に避けるべきなのは、上司と議論するのを避け、本心から納得しないまま、「決まったことだから仕方がない」などという認識で、部下に決定事項の遂行を求めること。
それでは、部下が本気で仕事に取り組んでくれることはありません。納得いくまで上司と話し合うのは、骨の折れることではありますが、課長としての役割を果たすためには、逃げてはいけないプロセスです。
もちろん、時には、どんなに話し合っても完全には納得できない場合もあるかもしれませんが、その場合であっても、現場の長である課長として「懸念点」を丁寧に伝えることには、組織にとっても意味があるでしょう。
それに、そのプロセスを経たうえで、「組織人」として決定事項の遂行を部下に求めれば、そこには一定の説得力が生まれるはずです。
ただし、「伝書鳩」になってはいけない
ただし、「伝書鳩」になってはいけません。
経営陣の決定事項を、「伝書鳩」のように、そのまま部下に伝えても、彼らの心に響くことはありません。必ず、そのチームや部下の置かれた状況や特性を考慮しつつ、自らの言葉で「翻訳」しながら伝える必要があります。私は、それこそが中間管理職の本質的な業務のひとつであり、部下に一目置かれる上司になるか、軽んじられる上司になるか、それを分けるポイントだと考えています。
やや極端なケースかもしれませんが、私自身、このような経験をしたことがあります。
かつて勤めていた会社で、私の部下数人を子会社に転籍させるという決定がくだされたことがあります。要するに、リストラです。
私は、その決定に本心からは納得していませんでした。たしかに、当時の会社の業績は悪かったですが、まだ、彼らとともに頑張って、業績を向上させる方法があると思っていたからです。しかし、私は上司と話し合いましたが、すでに決定された事項。もう覆ることはありません。
ネガティブな状況に「チャンス」を見つける
部下にどう伝えるか?
まさか、「リストラだ」とは言えません。そんなことを言っても、彼らの心を傷つけるだけ。彼らの上司としてできる最後の仕事は、彼らに転籍を前向きにとらえてもらえるようにメッセージを伝え、転籍後に活躍してもらう後押しをすること。そう考えた私は、次のように伝えました。
「君たちとは、もっと仕事がしたかった。僕にとっては、残念な決定です。だけど、転籍先の会社は今後上場を目指す方針だ。だから、上場前に転籍して、そこで最高のパフォーマンスを示してほしい。それは、君たちのキャリアにとって大きなチャンスになるに違いない」
私なりに、ネガティブな決定のなかに「チャンス」を見つけ出し、それを自分なりの言葉で伝えたのです。もちろん、おためごかしの「嘘」は通用しません。彼らも「リストラ」だとわかっている。そんな彼らを勇気づけるためには、自分の言葉で本気で伝えなければなりません。
このメッセージがどれほど彼らの力になれたかはわかりません。だけど、彼らは転籍を受け入れて、新しい職場で精一杯がんばってくれました。それは、彼らの「強さ」です。ただ、私は、少なくとも、彼らの「強さ」を損ねるようなメッセージを出さなかったとは思っています。
だから、課長は「伝書鳩」ではダメだと思うのです。チームや部下の気持ちを踏まえて、彼らを勇気づけ、高いパフォーマンスを引き出すために、経営陣の「決定」をそのまま伝えるのではなく、自分の言葉で「翻訳」して伝えなければならないのです。