『課長2.0』の著者・前田鎌利氏と『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』の著者・越川慎司氏の対談が実現した。テーマは「結果を出し続けるチームを育てるリーダーの思考法」。前田氏は、ソフトバンクグループにおいて社内外の複数事業のマネジメントを託され、コロナ禍以前から「リモート・マネジメント」の技術を磨き上げてきた人物。一方の越川氏は、2017年に働き方改革のコンサルティング会社、株式会社クロスリバーを起業。ITをフル活用し、メンバー全員の週休3日・週30時間労働を実現している。コロナ禍によってリアルワークとリモートワークのハイブリッド型のワークスタイルが一般化している中、早くからリモートワークに馴染んでいたお2人は、「これから重宝されるリーダー像」をどのように思い描いているのか。語り合っていただいた。
課長は頑張りすぎている
越川慎司さん(以下、越川) 『課長2.0』を拝読して、「『自分は平凡』と思う人ほど、優れたマネジメントを行う」という一節に大共感したんですよ。
前田鎌利さん(以下、前田) ありがとうございます。ぼくも『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』を拝読して、自分と越川さんの主張に共通点が多いことに驚いているんです。この本にも、「トップ5%リーダーの48%はメンバーにかなわないと思っている」とありますよね。
越川 はい。これまで多くのリーダーと接してきた肌感覚から、「優秀なリーダーほど、『メンバーのほうが優れている』と考えている」であろうことは予想できていました。実際にデータを取ってみたら、案の定でしたね。成果を出し続けているリーダーほど、「優秀であること」を手放していることがデータで明確に示されたんです。
前田 なるほど。越川さんのご著書は、すべて具体的なデータで示してくれるので腹落ち感がすごい。「なんとなく、そうだろう」と思っていることが、データで裏付けられると確信がもてるようになりますよね。
越川 ありがとうございます。実際にデータを取ってみると、感覚的に思っていたとおりの結果が出たり、感覚を裏切る結果が出たり、非常に面白いですね。そして、感覚とデータを突き合わせることで、思考を深めることができるわけです。
今回、本を書くために、トップ5%リーダーを対象にさまざまな調査をしましたが、そこから浮かび上がってきた彼らの思考・行動からものすごく多くのことを学ばせていただきました。
その一つが、「成果を出し続けているリーダーほど、『優秀であること』を手放している」ということでした。
そもそもリーダーが会社から求められているのは、「個人として、プレイヤーとして成果を出すこと」ではなく、「個人では到底太刀打ちできないような大きくて複雑な課題を、チームで解決すること」です。自分は「プレイヤー」ではなく、「プレイヤーのつなぎ役」なのだという至極当たり前のことをわかっている優秀なリーダーは、「プレイヤーとして優秀である」ことを自ら手放しているわけですね。
株式会社クロスリバー 代表取締役社長。株式会社キャスター 執行役員。
国内通信会社および外資系通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2005年にマイクロソフトに入社。業務執行役員として最高品質責任者やPowerPointやOffice365などの事業本部長を務める。2017年に改善活動のコンサルティング会社 株式会社クロスリバーを起業。ITをフル活用してメンバー全員が週休3日・週30時間労働を継続。のべ700社以上に、ムダな時間を削減し社員の働きがいを上げながら利益を上げていく「儲け方改革」の実行を支援。2018年から700名以上がリモートワークの株式会社キャスター執行役員と兼任。著書に、『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。
前田 「プレイヤーとして優秀である」ことを自ら手放す……頭ではわかっていても、なかなか難しいものですよね。
リーダー研修の講師を務める中で「仕事をもっとメンバーに任せてみましょう」と伝えても、「いや、この仕事は手放せません」「早くやらなければいけないので」といったように、「自分でやったほうがうまくいく」「自分でやったほうが速い」という思考にとらわれているリーダーを多く見かけます。
何を隠そう、かつてのぼく自身もそうでした。
睡眠時間を削りながら、自分自身がプレイヤーとなってチームのアウトプットを大きくすることに必死でした。でも……ぼくがいたソフトバンクという会社は、本当にたくさんの仕事が、次から次に降ってくるわけですね(笑)。すると、当然のごとくパンクしてしまう。
越川 わかります。
前田 そこで、否応なく気付かされました。「これはもう、自分が頑張ってアウトプットを大きくするのには限界がある。メンバーも優秀なんだから、もっと仕事を任せていこう。そうでないと、結果を出し続けることはできない」と。激務のおかげで、思考が転換できたといいますか……(苦笑)。
越川 ぼくも同じですよ。かつて、管理職だった頃は目の下にクマをつくって、徹夜して仕事して成果を出すタイプでした。また、そのような働き方が賞賛されるような企業風土でもありました。
だけど、無理がたたり、うつ病も2回患いました。体を壊す働き方から脱却するためには、「何か」を手放さなければならない。ぼくもいわば、必要に迫られて、「仕事を自分でやるのではなく、配下のメンバーに裁量権を渡す」という勇気が身についた感じです。
前田 「管理職である自分が頑張ればいい」という使命感があるからこそ、体を壊すほど働いてしまうんですよね……。難しいところですよね。
越川 ええ。それに、いまの管理職のほとんどはプレイヤーでもありマネジャーでもある、プレイングマネジャーです。そのため、業務量がほかの社員より圧倒的に多く、昼間はプレイヤーとして奮闘し、夜と土日にマネジャーとしての役割をこなす過酷な日々を送っています。
しかも、それに加えてウィズコロナの時代になって、慣れないリモートワークに対応しなければならない。メンバーと同じオフィスで働くよりも、マネジメントにかける手間はどうしたって増えますから、いま、会社の中で最も苦労しているのは、課長クラスの管理職のみなさんなんです。
かつて管理職として苦しんだ自分のことを思い出すと、いま苦労している管理職のみなさんの力になりたいと思いました。それで、彼らを救うためにはどうしたらよいかという問題意識から、『トップ5%リーダーの習慣』を執筆すべく、データ取りを始めたんですよ。