ロシアのプーチン大統領は、三井物産と三菱商事が参画する資源開発プロジェクト「サハリン2」の運営を新会社に移管するよう命じる大統領令を出した。両社がサハリン2から排除されれば、ロシアから日本に輸入されるLNG(液化天然ガス)が“遮断”される最恐シナリオは現実味を帯びてくる。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

サハリン2からのLNGが止まれば
スポット市場での調達が必要に

 資源強国のロシアが、資源に乏しい日本の足元を見るように揺さぶりをかけてきた。

 プーチン大統領が大統領令に署名したのは6月30日。岸田文雄首相も参加した北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の閉幕直後であり、首都圏が電力需給の逼迫で大規模停電におびえていたタイミングだった。

ロシアの資源開発プロジェクト「サハリン2」を事実上、接収する大統領令に署名したプーチン大統領ロシアの資源開発プロジェクト「サハリン2」を事実上、接収する大統領令に署名したプーチン大統領  Photo:Contributor/gettyimages

 大統領令によると、国益保護を名目にサハリン2の運営会社、サハリンエナジーの資産や権利義務は、ロシア政府が設立する新会社に移行される。サハリンエナジーの株主である三井物産と三菱商事は、ロシア政府が提示する条件に同意できなければ、新会社の株主になれない見通しだ。

 サハリンエナジーは日本向けのLNG(液化天然ガス)を年間約600万トン供給しており、これは日本が輸入するLNGのうち約8%を占めている。仮に三井物産と三菱商事の両社が新会社の株主から排除されたとしても、平時であれば、サハリンエナジーから新会社にLNG供給契約は引き継がれるのが一般的だ。

 しかし、今は戦時中である。ロシアがウクライナに侵攻して以降、日本はG7(先進7カ国)と足並みをそろえてロシアに経済制裁を課した。これに対し、ロシアは日本を「非友好国」と名指ししている。この状況下において、サハリンエナジーから移行した新会社が日本にLNGを供給するかどうかは不透明だ。

 そもそも今回の大統領令は、ウクライナ危機に端を発しG7が繰り出したロシアに対する経済制裁への対抗措置だ。ロシアの「非友好国」である日本は、サハリン2からのLNGを“遮断”される可能性は小さくない。

 ロシアからLNGを遮断された場合、サハリン2からLNG供給を受ける電力・ガス会社は、スポット市場で代替LNGを調達しなければならない。あるLNG業界関係者は、「問題は量ではなく価格だ。今の価格水準でLNGをスポット調達すれば、あっという間に利益が吹っ飛ぶ」と恐怖する。

 では、その代替調達コストは、電力・ガス会社にどれくらいのインパクトを与えるのか。