ビジネスの世界ではいま、「営業」という仕事の生産性を高め、会社の成長の原動力にしようという機運が高まっている。株式会社ナレッジワークCEO・麻野耕司さんの新刊『NEW SALES』は、そのような時代のニーズを捉え、圧倒的な成果が出る営業メソッドを体系的に紹介した1冊だ。
そこで今回は、麻野さんとボストン コンサルティング グループのシニア・パートナー杉田浩章さんをお招きし、新時代の営業のあるべき姿や営業を起点に組織を改革する手法について語っていただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の対談とQ&Aセッションの模様を全2回のダイジェストでお届けする。(構成/根本隼)

「成長し続ける会社」と「競合にすぐ追い抜かれる会社」の決定的な差とは?左:杉田浩章さん、右:麻野耕司さん

科学的な視点を取り入れた営業で業績がV字回復

麻野耕司(以下、麻野) 今回対談させていただく杉田さんの著書『思考する営業』(※)が、僕の運命を変えてくれたといっても過言ではありません。

『思考する営業』…2009年にダイヤモンド社より刊行。2016年に日本経済新聞出版社が『BCG流 戦略営業』というタイトルで文庫化

 2010年、当時勤めていたリンクアンドモチベーションで、僕は新卒時から所属していた管理部門から営業部門に異動したんです。リーマンショック以降、業績が振るわず、営業部門を改革せよ、というのが僕のミッションでした。でも僕には営業経験が皆無。何から手をつければいいのか全く分からない状況で、藁にもすがる思いで情報収集していた時に読んだのが『思考する営業』でした。

「営業活動の科学的な変革」という、当時としては斬新なテーマに直感的にひかれ、ボロボロになるまで読み込みました。その頃の営業部門はどちらかというと気合と根性を重視するカルチャーでした。そこに僕は、杉田さんの『思考する営業』で学んだ科学的な視点を導入したところ、業績がV字回復していったんです。

 当時の経験が、その後のキャリアを切り開いてくれた。そういう意味でも、やっぱりこの本は僕の人生にとって本当に大切な存在です。ですから今回、杉田さんとお話できるのをすごく楽しみにしてきました。

杉田浩章(以下、杉田) ありがとうございます。よろしくお願いします。

「価値を売る営業」への転換が必要だった

麻野 『思考する営業』では、「営業は顧客に『価値』を提供すべき」という視点や、「再現性のある営業プロセス」の重要性などが説かれていて、たくさんの発見がありました。杉田さんはどのような背景でこの本を執筆されたのでしょうか。

杉田 その頃は、「いいプロダクトを作りさえすれば、ずっと売り続けていられる」という比較的シンプルなビジネスモデルが通用していた時代から、プロダクトやサービスが顧客にとって「どんな『価値』をもたらすのか」を営業がきちんと伝えなくてはならないという新たなフェーズへ移行しつつある時期でした。

 企業は顧客にとっての「価値」を考慮してプロダクトやサービスを作り、営業もその「価値」を顧客に的確に説明することを通じて、売り上げを伸ばしていかなければならない。そんな局面に突入していたのです。

 そういった背景から、単に「モノを売る営業」から「価値を売る営業」へ変わるための科学的なメソッドを詳しく解説しました。

営業の世界で起きた「この10年の変化」とは?

麻野 「価値」という概念は、当時の営業の世界ではかなり斬新だったと思います。『思考する営業』の出版以降、日本の営業は実際どのように変わりましたか。

杉田 従来は営業、営業企画、マーケティング、プロモーションといった部門が縦割りで存在していました。しかし、ここ数年でその構造が再編され、営業の役割や位置付けもかなり変化したと思います。

 例えば自分たちがターゲットとして想定している顧客は誰なのか、顧客の課題は何で、どんなプロダクトやサービスがその課題を解決できるのか。そんな視点が営業では不可欠になりました。

 さらに日々の業務で顧客と直接コンタクトする営業が、顧客を観察し、商品開発やマーケティングに生かる情報をつかんでくる。そして、その情報を社内の他部門に的確に提供する。そんな役割が、営業という仕事において非常に重要になっています。

 私は、この点こそ、いまの時代の営業が生み出せる「新しい価値」だと考えています。