営業がつかんだ情報を起点に「競争優位性」を高める
麻野 なるほど。マーケットや顧客に直接触れている営業だからこそ、その役立つ情報を社内で共有する。それが新たなサービスやプロダクトの開発につながるというサイクルが回り始めると、「売る力」の強い組織に変わっていきそうですね。
杉田 このループを回し続けると、組織に「知」が蓄積されていって、その回転数の違いがそのまま組織力の差にもつながるようになる。会社の競争優位性に劇的な効果を生みます。一度、このシステムが出来上がると、他社は簡単には追いつけなくなりますからね。
麻野 まさにそれが本質的なポイントだと思います。プロダクトやサービスはいま、非常に模倣されやすい時代になっています。実際、僕は2020年にナレッジワークを創業してからずっと、非公開でサービス開発を進め、ようやく今年4月にプロダクトをリリースしました。それは模倣が怖かったからです。そしてプロダクトをリリースしたいま、もうどこかで誰かが我々の模倣を始めているかもしれません。
しかし、営業組織の文化のように目に見えないものは、簡単には模倣できません。だからこそ、確固たる競争優位性が築けますよね。
古い体質の組織を変革するポイントとは?
麻野 ただ、訪問件数や短期の売り上げを重視してきた組織が、いきなり「価値」を重点に置いて行動するのは、現実的にはなかなか難しいですよね。そんな中でも変革を成し遂げるための具体的なポイントは何でしょうか?
杉田 「変革なしでは組織は成長できない」という強い危機感が、経営層から最前線の現場に立つ営業まで、きちんと共有されることが最重要ですね。
トップが「こう改革しろ」と押しつけるだけではダメで、「いまの営業のやり方を続けたら、自分たちの存在意義がなくなる」と営業担当者が実感していないと成功しません。
麻野 僕がいまCEOを務めているナレッジワークの営業チームでも、「顧客への価値提供」をテーマに掲げていますが、完全に実践できているとは言えません。挑戦はしているけれど、どうしても「売り込む」局面が前面にでることもあるんです。
価値提供の営業と見せかけて、実質は単なる商品販売になっている。そんなケースは世の中に数多くあると思います。だからこそ、ひたすらプロダクトの宣伝文句を並べる提案書ではなく、医師の診断書のように、顧客の抱える問題点を挙げながら、「なぜうちのプロダクトが適切なのか」を合理的に説明する提案書を作るべきであると、営業チームには呼びかけています。
営業だけでなく顧客も成果を問われている
杉田 顧客自身が企業活動の評価にあたって「データドリブン」になっていることも、非常に大きな変化です。
昔はROI(投資利益率)がそれほど重視されていなかったと思います。しかし、いまや様々なデータが可視化されて、より精密な評価が可能になっています。それによって、顧客の組織内でも新しいサービスやプロダクトの導入による成果が問われるようになっている。
言い換えれば、無理矢理売り込んで買ってもらっても、そのプロダクトで成果が出なければ、リピートしてもらえる可能性は極めて低くなる、ということです。
麻野 顧客サイドも、顧客に購買してもらったプロダクトのROIを、以前よりもきちんと測るようになっていますよね。だからこそ、表層的な売り文句や押し売り営業はもう通用しない。
杉田 初めの1回はうまく売り込めても、それ以降ファンになってもらって持続的な関係をつくっていくのは不可能でしょうね。(7月17日(日)公開の後編『「頑張っているのに結果が出ない営業」に根本的に欠けているたった1つのものとは?』に続きます)
(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」主催『NEW SALES』刊行記念セミナーのダイジェスト記事です。「The Salon」の公式Twitterはこちら)