ビジネスの世界ではいま、「営業」という仕事の生産性を高め、会社の成長の原動力にしようという機運が高まっている。株式会社ナレッジワークCEO・麻野耕司さんの新刊『NEW SALES』は、そのような時代のニーズを捉え、圧倒的な成果が出る営業メソッドを体系的に紹介した1冊だ。
そこで今回は、麻野さんとボストン コンサルティング グループのシニア・パートナー杉田浩章さんをお招きし、新時代の営業のあるべき姿や営業を起点に組織を改革する手法について語っていただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の対談とQ&Aセッションの模様を全2回のダイジェストでお届けする。(構成/根本隼)
「一定の行動量」は営業活動に欠かせない
――昔ながらの営業スタイル(「OLD SALES」)の中で、今後も大切にし続けるべきファクターはありますか?
麻野耕司(以下、麻野) おもしろい質問ですね。僕は、「足で稼ぐ」という要素は実はこれからも重要だと思います。やはり成果を出すには一定の行動量が欠かせませんから。
顧客から直接話を聞いて得られる情報は極めて貴重で、マーケティングのようなマスのアプローチではカバーしきれないものでもあります。だからこそ、どんなにテクノロジーが進歩しても、顧客との接点を増やすための努力は、変わらず続ける必要があると思います。
杉田浩章(以下、杉田) 私は「愛情」が大切だと考えています。愛情がないと、顧客や顧客のプロダクトに対して興味が湧きません。興味が湧かないと、いくらテクニックだけで営業スキルを覚えても、相手がどんな課題を抱えているのか、どんな提案をすると喜んでもらえるのかという深いレベルで思考することは難しいはずです。
物事を決断する際には、必ず何らかのリスクが伴います。その時に「この人が背中を押してくれるならやってみよう」と営業担当者が思ってもらえるかどうか。このポイントは非常に大事ですね。
「ナレッジのシェア」が組織改革のカギ
――営業という一部門が、会社全体に影響を与えるような意見を言うには、意見を受け入れてもらうような組織文化や土壌づくりも必要だと思います。そのような改革を実現するためのヒントをいただけますでしょうか?
杉田 『NEW SALES』でも言及されていたように、組織全体でナレッジのシェアをどれくらい進められるかがカギになります。
ナレッジのシェアには、ベストプラクティスを営業メンバーで共有して、全体のレベルを底上げする効果があります。しかし、それ以上に重要なポイントは、現場で起きている成功・失敗事例が組織のトップにシェアされることなんです。それによって、意思決定層が新たな気づきを得られますから。
現場の営業担当者が1人で、組織の問題点を声高に説いても、聞き入れてもらうのはなかなか難しいでしょう。そこで有効なのが、顧客のリアルな声の活用です。
顧客にどんな提案が刺さったのか。どんなプロセスで成功を収めたのか。そういったナレッジ、あるいは顧客へのヒアリングを通じて浮かび上がった自社の強みや伸びしろ、他社にと比べたウィークポイントといった「生の情報」を、経営レベルに届けていく。それが変革への第一歩になるはずです。
小さなチームからでも変革は起こせる
麻野 実は、僕自身、前職で営業組織を改革するときには、杉田さんの著書『思考する営業』(※)の内容をスライドでまとめて、社内で改革を迫ったことがあるんです。ですが残念ながら、すげなくはねつけられてしまいました。僕はその時、「自分1人から、『スモールスタート』で頑張ろう」と思ったんです。
そして周りの同僚や後輩3~4人を集めて、『思考する営業』の勉強会を開いたんです。その上で、「価値を伝える」という観点で営業用の資料をすべて作り直したり、新しいKPIを設定したりしました。
当初は、本の内容を完全には理解できていたとは言えませんでした。それでも営業の現場で実践するうちに杉田さんの書いていたことが体感でき、1~2年経ったころには驚くほどの成果を出せるようになっていました。それを見てようやく会社が変わり、僕らが実践したメソッドは組織全体に広がっていきました。
だからこそ、僕は小さいチームの力を心から信じています。1人で会社を変えるのはたしかに難しい。でも、一人ひとりの中には、自分とチームを変えるぐらいのパワーはあります。だからこそ、僕の前著『THE TEAM』では「まずチームから変えていこう」というメッセージを込めているんです。
新刊の『NEW SALES』でも、営業担当者が1人でできるメソッドから紹介しています。本書で紹介している、前半の4つのSが「まずは自分から変わろう」というテーマで、後半の3つのSが「チームを変えよう」という内容です。「小さなチームの力」をより多くの人に認識してほしいですね。