「売り上げをKGIにしない」という大改革

――営業におけるKGI設定のポイントを教えてください。

麻野 これまでの営業の世界では、「価値」という概念はほとんど導入されず、KGIやKPIは、売り上げに立脚したものばかりでした。

 僕の前職のリンクアンドモチベーションも同様で、以前のKGIは売上数値だったんです。どれだけ稼いだかが重視され、リピート率にはほとんど注目していませんでした。そのため、私が所属していた部門ではリピート率が30~40%という極めて低い水準にとどまっていました。

 これほどリピート率が低いと、売上達成のためには、多くの新規顧客を獲得することが不可欠になります。既存客のフォローができていないわけですから、どんどん新規顧客を開拓していかなくてはならない。これはもう負のスパイラルですよね。

 そこで当時、僕が実施したのが、「売り上げをKGIに設定しない」という大改革でした。

 コンサルティングの本来の目的が「顧客の組織の変革」であるならば、顧客が「組織の変革に成功した」と感じるかどうかが現れる指標は、売り上げではなく「リピート率」になるはずです。

 であれば、リピート率をKGIに設定し、売り上げはその結果としてついてくるものだと発想の転換をする必要がある。実際にKGIをリピート率にし、それを高めていくと、業績の大幅な改善を成し遂げることができました。

営業こそリーダーシップが必要な時代

――これから先、営業という仕事はどのように変化していくと思いますか?

麻野 今後は、営業担当者一人ひとりのリーダーシップが問われるようになると思います。というのも、営業という存在は価値提供を通じて課題を解決した先にある、顧客の「ありたい姿」へ導く舵取り役だからです。

「この人の言う方向についていこう」と顧客に信じてもらって、顧客を新たな方向に導いていく。こうした顧客に対する影響力を持つこと。同時に社内の営業やマーケティング組織を引っ張るリーダーシップも欠かせません。この両方を兼ね備えると、ものすごく面白い仕事ができるんじゃないでしょうか。

杉田 野中郁次郎先生の『知識創造の経営』や『知識創造企業』で触れられているポイントですが、営業に限らず、企業の本質的な強さは「ミドルアップダウン」にあると考えています。

「ミドルアップダウン」とは、現場から得た一次情報をミドル層が解釈して経営層に上げる。そして、意思決定されたものを、ミドル層が今度は現場に下ろして導入していくというマネジメント手法です。

 これを営業で置き換えると、顧客という「現場」で得た生の情報から気づきを持ち帰って社内にフィードバックする。そして、そのフィードバックが生かされた新商品のもたらす価値を顧客に説明するという流れになると思います。

 このサイクルの強度と質をどれだけ高めていけるかが重要だと感じています。

――最後に対談のご感想をお願いいたします。

麻野 杉田さんの『思考する営業』を幾度となく読んできたので、今日が初対面とは思えませんでした。お話していてとても刺激になって楽しかったです。

 新刊の『NEW SALES』も、かつての僕にとっての『思考する営業』のように、日本中の営業担当者にとって「迷ったらいつも手に取る本」になればいいなと思っています。この本は、単なる勉強のためではなく、皆さんに実践して、変革してもらうために書きました。ですから、ぜひ、現場で積極的に活用していただけると嬉しいです。

杉田 私が考えてきたことを麻野さんが実践してくださっていた。だからこそ非常に面白く議論ができたのだと思います。同時に私自身も、麻野さんのエピソードがとても参考になりました。見解をリフレッシュしていく素晴らしいきっかけになりました。(終わり)

(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」主催『NEW SALES』刊行記念セミナーのダイジェスト記事です。「The Salon」の公式Twitterはこちら