実質的に9年近くにわたって継続されたアベノミクスには功罪両面がある。功は景気回復の長期化と完全雇用の達成だ。では、罪の部分は何か。それは、超金融緩和と拡張的な財政政策の継続によってもたらされた二つの弊害である。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)
景気回復の長期化と
完全雇用達成が成果
安倍晋三首相が退陣したのは2020年9月だったが、その後、1年間続いた菅義偉政権も継承を掲げ、アベノミクスは9年近く続けられた。この間、政策スローガンとして「経済を最優先する」ことが掲げられたが、適切な政策運営が行われたのか。
最大の成果は、景気回復の長期化だ。戦後最長だった2002年2月~08年2月の「いざなみ景気」の73カ月には届かなかったが、「アベノミクス景気」は12年12月~18年10月までの71カ月と、高度成長期のいざなぎ景気の57カ月を超え、戦後第2位の長さを誇る。
家計にとり、景気の振幅を抑え、失職の恐れもなく、安定的な消費が可能となることは、それ自体が経済厚生を高める要因だ。企業経営者も、マクロ経済の振幅が抑えられ、不確実性が低減すると、事業活動が容易になる。
安倍政権は、経済運営において、まず目指すべきマクロ経済の安定化には成功した。グローバル経済の回復継続という好運にも恵まれたが、過去には、グローバル経済が拡大を続ける中で、日本だけ不況というケースもある。景気回復の長期化は好運だけ、といって成果を軽んじるのは適切ではない。
第二の成果は、景気拡大の長期化で、完全雇用に達し、それを維持したことだ。理論的にも、マクロ安定化政策の最終的目標は、完全雇用の維持と考えられる。とりわけ短期失業率は、1990年代初頭のバブル期並みの水準まで低下した。
働く意思と能力を持つ人はほぼすべてが採用され、失業しているのは、より良い就業機会を求める自発的な失業者のみ、という状況に達した。
2010年代は世界的に政治が不安定化したが、少なくともコロナ禍が訪れるまで、日本の政治は安定し長期政権が可能となっていた。景気回復が長期化し、完全雇用が維持されたことも寄与したのだろう。
それでは、アベノミクスの課題は何か。完全雇用に達した後も、超金融緩和と拡張的な財政政策の継続という過度なマクロ安定化政策を繰り返したことが、資源配分をゆがめた。それによって日本経済にもたらされた弊害を次ページから検証していく。