世界にEV旋風を起こしたテスラと、NASAから絶対の信頼を得て火星ロケット開発を進める宇宙開発企業スペースX。この最先端ハイテク企業を率いるイーロン・マスクは現代の天才経営者だ。しかし、それ以前にはスティーブ・ジョブズが天才経営者と呼ばれていた。では、イーロン・マスクはジョブズを超えたのだろうか?イーロン・マスクとスティーブ・ジョブズに関する多くの著作を出してきた作家で経営コンサルタントの竹内一正氏が詳しく説明する。
21世紀の初めの10年は
「ジョブズの時代」だった
21世紀の初めの10年間は、まさにスティーブ・ジョブズの時代だった。
2001年に発売した携帯音楽プレーヤーiPodはアップルを再生軌道に乗せ、04年に音楽配信サービスiTMS(アイチューンズ・ミュージックストア)をスタートさせると、業績は一気に上昇していった。07年に販売を開始したiPhoneはスマホブームを巻き起こし、世界中の人々のライフスタイルを変え、社会のインフラとなった。
22年に始まったロシアのウクライナ侵攻では、戦争の悲惨な状況がウクライナ市民らのスマホから世界に生々しく発信されている。もし、ジョブズがiPhoneを作らず、スマホが生まれなければ、世界はロシアのウクライナ侵略の悲惨さをこの目で見ることはできなかった。
しかし、そのジョブズが11年に逝去すると、次の10年はイーロン・マスクの時代となった。
テスラは12年に高級EVセダン「モデルS」を発売し、14年から巨大リチウム電池工場ギガファクトリーの建設に着手。17年に登場した3万5000ドルのEV「モデル3」は予約注文だけで40万台を超え、それまでEVに本気を見せなかった大手自動車メーカーにEVシフトを決断させた。そして、20年にテスラは時価総額でトヨタを抜いて世界一の自動車メーカーとなった。
マスクのもう一つの会社、宇宙開発企業スペースXは12年に国際宇宙ステーションとのドッキングに成功し、17年には打ち上げたロケットの1段目を地上に戻して着陸させ、再び打ち上げるというロケット再利用に世界で初めて成功した。NASAにもできなかった快挙だった。20年には国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送を民間企業として初めて実現した。
二人の天才経営者はそれぞれの時代を作った。