壁を超えたら人生で一番幸せな20年が待っていると説く『80歳の壁』が話題になっている今、ぜひ参考にしたいのが、元会社員で『島耕作』シリーズや『黄昏流星群』など数々のヒット作で悲喜こもごもの人生模様を描いてきた漫画家・弘兼憲史氏の著書『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)だ。弘兼氏のさまざまな経験・知見をもとに、死ぬまで上機嫌に人生を謳歌するコツを説いている。
現役世代も、いずれ訪れる70代、80代を見据えて生きることは有益だ。コロナ禍で「いつ死んでもおかしくない」という状況を目の当たりにして、どのように「今を生きる」かは、世代を問わず、誰にとっても大事な課題なのだ。人生には悩みもあれば、不満もあるが、それでも人生を楽しむには“考え方のコツ”が要る。本書には、そのヒントが満載だ。
※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』より一部を抜粋・編集したものです。

【漫画家・弘兼憲史が教える】個人的に宗教とは一定の距離を保っているワケ作:弘兼憲史 「その日まで、いつもニコニコ、従わず」

現実的な思考をする原体験

僕は子どもの頃から人一倍、現実的な思考をするタイプの人間でした。物心ついた頃には「サンタクロースなんて、どう考えてもおかしい。絶対にいるわけないだろう」と確信していました。

「サンタクロースはクリスマスの一夜のうちに、世界中の子どもにプレゼントを渡す」という話を聞いて、「そんなのどう考えても、時間的に間に合わない」と思ったのです。可愛らしくない子どもですね(笑)。

あれは、まだ小学校低学年だったでしょうか。クリスマスの夜、親から早めに寝るようにいわれ、眠くもないのに布団に潜ったことがあります。なかなか寝つけずにいると、しばらくして案の定、父親が枕元に近づいてきました。僕が寝たふりをしていると、父親はプレゼントをそっと枕元に置いて戻っていきました。

「ほらな、やっぱり」と思いました。ただ、子ども心にも、そのことを親に伝えて失望させるのは気の毒だという思いもありました。だから、朝起きてから初めてプレゼントの存在に気づいたふうに、わざとらしく喜ぶ演技をしていました。

ファンタジーと現実の使い分け

その翌日、友人と遊びに行くと、お互いにクリスマスをどう過ごしたかという話題になります。一人の子が「ねえ、プレゼントもらった? サンタクロースってやっぱり本当にいるんだね」と興奮ぎみに話しかけてきたので、「そんなのいるわけないだろ」と即答したのを鮮明に覚えています。親には気を遣うわりに、友人には容赦がありませんでした(笑)。

世間的には、「サンタクロースを否定するのは夢がない」みたいな風潮もありますが、サンタクロースを無邪気に信じているのもいかがなものかと思います。やはり、子どもがある程度の年齢になったら現実を教えてしかるべきではないでしょうか。

そんなわけですから、死後の世界についても疑わしく感じています。僕は漫画家ですから、ストーリーとして死後の世界を空想することはあります。でも、それはあくまでも想像の世界に過ぎません。

宗教の発展と死後の世界

死んだらすべてが終わり。天国もなければ地獄もなく、輪廻転生もありえないというのが僕の見解です。

昔は、今より平均寿命がはるかに短く、いつ戦乱や病気で命を落としてもおかしくない状況にありました。強盗殺人に遭ってあっけなく死んだり、食糧難で野垂れ死んだりというのも珍しくはなかったはずです。

そんな世の中で、死に恐怖を感じる人、あるいは生きるのが苦しくてつらい人が、宗教に救いを求めるのは自然のなりゆきです。「死んだら極楽にいける」「生まれ変わったら幸せな人生を歩むことができる」。人々にそういう希望を与えながら発展してきたのが、宗教だったのでしょう。

僕自身は、こういった宗教の役割についてはよく理解しているつもりなので、けっして否定するものではありません。でも、こと自分に関しては宗教観にもとづいて行動した経験はほとんどなく、宗教的な行事とも一定の距離を保つようにしています。そういう意味では現実主義で無宗教なのです。

※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。