変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。

【コンサルが解説】地方都市を活性化するヒントは、新興国のイノベーションから学べるPhoto: Adobe Stock

コミュニティが失われつつある日本の地方都市

 海外在住の私は、今年の6月に、約2年半ぶりに日本へ一時帰国し、親族や友人、クライアントに会うために複数の地方都市を訪問しました。

 千葉や群馬、遠くは宮城まで足を延ばしましたが、私にはそれら地方都市がすべて同一に見えました。バイパス道路沿いに立ち並ぶチェーン店やバブル期に設計された住宅街。シャッター街と化した商店街と地方創生のために建設されたイベント会場などのハコモノ、などなど。

 下町が残る東京や大阪などの都心では、商店街や地元のコミュニティが一定程度残っています。しかし、私が訪問した地方都市では大型の小売りチェーンや外食チェーンなどによって、それらコミュニティがほとんど失われていました。

 これら小売りチェーンや外食チェーンは独自のサプライチェーンを構築し、均質的な商品やサービスを全国規模で展開することに貢献してきました。それらによって私たち消費者にもたらされた恩恵は計り知れないでしょう。

 一方で、商店街や地域コミュニティでの人と人とのつながりが失われてきました。また、小売りチェーンや外食チェーンの不採算店舗が閉鎖された結果、日々の生活に必要な物資すら満足に手配できない地域も生まれています。

社会にやさしい新興国のイノベーション

 皆さんは、スーパーアプリという言葉を聞いたことがありますか?

 スーパーアプリとは、新興国で生活を支えるために利用されているスマホアプリの一つです。

 例えば、ゴジェックという東南アジアのスーパーアプリは、移動手段、決済手段、食事、清掃、ゲーム、ヘルスケアなど、生活に必要なサービスの多くを提供しています。家にいながら、近くの屋台の食事を注文したり、家の掃除をするための清掃員の派遣を頼んだりすることもできます。

 これらスーパーアプリは、バイクタクシーを組織化し、地域のパパママショップ(個人経営店)と連携しています。屋台のオーナーからすると、これまでリーチすることができなかった新たな消費者に食事を届けることができるようになりました。診療所の医師が、遠隔で患者の診療をして、薬を届けることも可能です。

 スーパーアプリは地域社会の活性化に大いに役立っていますが、日本のようなコミュニティの破壊をしていないことに特徴があります。

ハコモノではなく、社会を支えるプラットフォームを作るべき

 冒頭の話に戻りますが、日本の地方都市では人と人とのつながりが希薄になり、コミュニティが維持できなくなっています

 コロナ禍の影響もあり、個人経営店も事業の継続が難しくなっています。このような状況下でも、大型のイベント会場や芸術劇場などが建設され続けています。

 もちろん、中には地域振興に有効な役割を担っているハコモノもあるでしょう。しかし、短期的な雇用を生み出したり、外から人を呼び込んで客足を改善するためのハコモノを増やしたりという改善案以外も考えるべきではないでしょうか。

 例えば、新興国の事例から学べるのは、外から人を呼び込むのではなく、今ある個人経営店の活動を支援するためのプラットフォームを作ることで、地方都市を活性化するという方法です。

 日本ではクレジットカードや電子マネー、QR決済など民間のキャッシュレス決済手段が乱立していますが、消費者からすれば現金に代わる物が一つあれば充分ではないでしょうか。地域の個人経営店から生活必需品や食事を購入できれば、多くの高齢者が助かるのではないでしょうか。

 法改正や規制の撤廃などが必要とはなりますが、ライドシェアで近所の若者が高齢者の足となることで、人と人とのつながりが生まれ、地域社会が復活することでしょう。

 今回は、新興国からヒントを得て、日本の地方創生について考えてみました。

 答えのない時代に素早く成果を出すためのアジャイル仕事術は、日々の仕事で成果を出すだけでなく、社会をより良くしていくためにも役立てることができます。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。