マルクス主義を強調する習近平
経済が政治の鍵を握る
「経済基礎決定上層建築」
中国には、こんな言葉がある。端的に言えば、経済状況が政治動向を左右する、という意味である。中国における一つの国情を示唆するものであり、マルクス主義に起因するものだ。
習近平総書記(以下敬称略)は、自らの指導思想である「習近平新時代中国特色社会主義思想」(略称「習近平思想」)とは、「新時代においてマルクス主義を中国化した産物」だと定義している。前任者らに比べて、習近平は昨今の中国共産党が依拠すべき思想的基盤として、マルクス主義を強調する傾向が強い。中国は今になっても、いや今だからこそ、マルクス主義の国家なのであると。
習近平を含めた中国共産党の指導層、為政者が、自由で公正な民主選挙で選ばれたのではなく、科挙制度を伝統に据えた、独自の党内競争・浄化システムによって選抜されてきた経緯と背景を考慮すれば、冒頭の言葉は一層の重みを内包する。選挙という手続きを経ていない中国共産党だからこそ、人民からの信任を得るために、実績という結果が重要になるからだ。
1921年に結党し、合法的手続きではなく、暴力によって「天下」を取り、1949年に中華人民共和国を建国した中国共産党がこれまで唯一の統治者として君臨してこられた正統性は、時代と共に変異してきた。
建国当初は、「抗日戦争」で日本を打倒し、「解放戦争」で国民党を駆逐したといった宣伝が作用していた。ただ、国家を破綻寸前にまで追いやった大躍進や文化大革命を経て、改革開放以降、正統性の支柱にあったのは経済である。人々が物質的に豊かになっていく、その過程を共産党による統治が支え、推し進める。それによって、統治者である共産党と、被統治者である人民の間で一種の「君主協定」が結ばれる――。
国が安定し、繁栄するという前提を保持し続けてくれるのであれば、われわれ人民は共産党を支持し続ける。さもなければ、反逆を起こす。
両者が、選挙ではなく、実績を通じて結ばれているゆえんである。
民主選挙を持たない中国が「政治の国」であるからこそ、経済が鍵を握るという逆説の論理が、14億を超える民たちの前に横たわっているのである。