消化器内科で萎縮性胃炎と診断されたTさん、47歳。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染もわかったので自費で除菌療法を受けることにした。じつは胃がん家系なのだ──。
感染が原因の悪性腫瘍といえば肝がんが有名だが、おなじみの胃がんもじつは立派な「感染症」。原因菌は、あのヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)だ。日本国内の感染者数は約6000万人で、上下水道が完備される以前に育った世代に多く、現・中高年層の半数~7割が感染しているといわれる。逆に今の10代の感染率は1割にも満たない。
発見者や研究者が自ら感染し、胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因菌であることを証明してきたピロリ菌だが、胃がんとの関連については長らく議論されてきた。その論争に一石を投じたのは2008年に日本から発表された臨床試験。内視鏡治療を受けた早期胃がんの患者をピロリ菌の除菌を行うグループと除菌をしないグループに分け、3年間の経過観察を行ったところ除菌グループでは胃がんの再発率が3分の1に激減したのだ。
これを受けて09年に改訂されたピロリ菌感染の診療ガイドラインでは「ピロリ菌感染症」という疾患概念が新たに提唱された。さらにピロリ菌感染者は胃・十二指腸潰瘍の治療のみならず、胃がんや胃がんの発生母地となる萎縮性胃炎など、ピロリ菌に起因する疾患の予防を目的とした除菌治療が推奨されている。