時代を先取りし
「人こそが資産」と明言
もう一つ、鎌倉新書の経営で着目したいのは「人の重視」を掲げていることだ。同社は2015年に東京証券取引所マザーズ(当時)に上場し、2017年には東証1部(同)に市場変更を果たした。現在は東証プライムに上場している。
清水氏は本書で、上場のメリットとして、優秀な人材を集める上での優位性を強調している。また同氏は「人こそが資産、成長の源泉である」と常々公言しているという。
さらに清水氏は、「次にどんな事業に挑むのか」と問われたときに「そのサービスを『誰がやるのか、どんな組織がやるのか』が重要である」とも発言しているそうだ。
清水氏はその哲学の一環で、楽天の元常務執行役員・相木孝仁氏を代表取締役社長として招聘(しょうへい)する(現在は退任し、スーパー大手ベイシアの社長を務めている)など、幅広い人材の獲得に力を入れている。
話は変わるが、近年、欧米の企業経営では「人的資本開示」の取り組みが進められている。これは、株主をはじめとするステークホルダーに、非財務情報である「人材」の情報を開示するというものだ。日本でも、岸田文雄首相が2022年1月の施政方針演説で、取り組みの強化を明言している。
こうした動きが強まっている要因は、利益だけなく環境・社会・ガバナンスを重視する「ESG経営」が重視される流れとも関係している。
日本企業もこの潮流に乗り、「企業の価値は財務諸表だけでは測れない」「企業に所属する人材は、投資することで価値を生み出せる『資本』である」という考え方を取り入れ始めている。
その意味で、早期から「人の重視」を掲げてきた鎌倉新書の経営姿勢は、時代の一歩先を行くものだったのではないだろうか。
もしかするとこの方針は、鎌倉新書が手掛ける事業が「人生」と深く関わっていることから導き出されたものかもしれない。
鎌倉新書の今のビジネスは、清水氏による「時代を読みつつ顧客ニーズをつかむ」「これまでの強みを生かしながら、顧客ニーズに応えていく」という努力の結晶だといえる。ぜひ、本書から発想のヒントを得ていただきたい。
(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)