現代中国人の生活に、唐詩の響きを自然になじませたセンス

 唐の詩人李白は楊貴妃の美貌をうたった「清平調」という名詩を世に書き残している。

雲想衣裳花想容   雲には衣裳を想い 花には容を想う 
春風拂檻露華濃  春風檻を払うて 露華濃やかなり
若非群玉山頭見   若し 群玉山頭に 見るに非ずんば
會向瑤臺月下逢   会ず 瑶台月下に 向かって逢わん
参照

 レブロンは、ブランドの中国語ネーミングを、この詩の中で出てくる言葉の「露華濃(Luhuanong)」にしたのだ。

 はじめて「露華濃」を目にしたとき、そのネーミングのうまさにただただ頭が下がるばかりだった。

 膨大な数の唐詩の中から、発音がレブロンに近く、意味も美しく、香水のイメージにフィットし、楊貴妃の美貌をうたうこの表現をよくぞ探し出したものだと、私は感心した。そのネーミングを開発した方の中国文化に関する教養の深さに最大の敬意を払うと同時に、他の追随を許さない実力にも感嘆した。しかも、李白が唐の詩人だから、著作権料など厄介な問題も発生せずに済む。コストパフォーマンスがいいのだ。ほかの原稿や書物のなかにも、このような感想を何度も書いたほど感心してきた。

 2003年、私は日本の大手広告会社とアドバイザー顧問契約を結び、日系企業が中国市場に参入する際のブランド名称開発に携わることになった。そのとき、私の心の中でひそかに「露華濃に負けないような海外のブランドの中国語ネーミングを開発しよう」と誓った。

 それ以来、私の開発した日本製品のブランドの中国語ネーミングのほとんどは、その路線を踏襲し、やがて自分のスタイルも確立できた。なかには、「日系車の車名として最も美しい」と中国のメディアから推されたネーミング商品もあった。大手広告会社の社員との共著『中国語ネーミング開発ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、2005)、『中国ビジネスはネーミングで決まる』(平凡社新書、2008)などの本も出版できた。

 こういう関係もあったから、レブロンの破産法申請のニュースに、私は心の震撼を覚えたのだ。