警戒すべき相手の反応

 ところが、私の頭のなかですぐに警報が鳴る場合もある。それは、応募者が次のような反応を見せたときだ。

 居心地が悪そうに、もじもじ、そわそわする。
 言葉がつっかえる。
 しばらく沈黙が続く。
 無表情のまま、ぼんやりとした目つきをする。

 人間はとんでもないウソつきだから、返答に困る質問をされれば、さて、どうしたものかと、脳はフル回転を始める。だから上記のような反応を見せる人は、どうにかして誠実な人間のように体裁をとりつくろい、就職に成功したいと考えている。

 かつて、この質問を投げかけたところ、とたんにもぞもぞしはじめた女性がいた。そして、その顔に浮かんだ表情は「ヘッドライトに照らされた鹿」そのものだった。そこで私は、だれでも人生のある時点で盗みをはたらいた経験があるものです、と説明した。

「それはごく当然のことで、問題はないんですよ」と私は言った。

「人間は愚かなことをするものですから」

 すると、その女性はとたんに背筋を伸ばし、以前の勤務先のオフィスから備品を山ほど盗んだことがある、と打ち明けた。ところが、その後、彼女の話は常軌を逸しはじめた。

 彼女が盗んだのはペーパークリップ一握りとか、ペンを数本とかいう程度ではなかった。勤務先と競合ビジネスを始める計画を立てていたので、盗品で備品一式を揃えて起業に必要な経費を節約しようとしたという。

 この女性を採用するわけにはいかないと、私は即断した。いいおとながこれほどの盗みをはたらいておいて、それでも問題ないと考えている。それだけでも衝撃的だったが、こんな話を将来の雇用主になる可能性がある相手に平然と告白しているのだから、まったくもって言語道断だ。

(本原稿は『超一流の諜報員が教えるCIA式 極秘心理術』(ジェイソン・ハンソン著、栗木さつき訳)の抜粋です。本書では「誠実な人」を見抜く「4大鉄則」を紹介しています。)