AI導入に二の足を踏む企業は
「競争非優位性」を築くことになる

 というのも、AI導入が自社にとってうまくいくかどうか、やってみなければわからないからです。だからこそ、小規模でも早期にスタートし、「実験」を重ね、拡大していく必要があるのです。

 その好例が、米IT系コンサル大手、アクセンチュアのRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション/ロボットによるプロセスの自動化)導入です。

 RPAは、チーム作業などをコンピュータで自動化し、時間の短縮やパフォーマンスの向上、エラー数の低下などを可能にするものですが、興味深いのは、アクセンチュアが自社のRPA導入に当たり、時間をかけて特定の工程を踏んだことです。

 まず、社内の一部で試し、どのようにRPAを実装すべきかを探り、「成功事例」を見いだす。そして、それをほかの部署や全社レベルに広げていく――。これが大切なポイントです。

注:2020年9月22日付同社ブログによると、アクセンチュアは、サービス業務や請求書発行、税務処理など、さまざまな事業プロセスを自動化。ブログ掲載時点の開発ボット(ソフトウエアロボット、自動プログラム)数は70を超え、作業の成功率は98%に上ったという。

――あなたは米メディアの取材に対し、AI導入に二の足を踏む企業は、競争優位性ならぬ、「競争非優位性」を築くことになるという見解を示していますね。

シーマンズ教授

シーマンズ 例えば、米国でAI活用がもっとも進んでいる業界の1つ、金融サービスセクターを例に取りましょう。

 AIを導入していないヘッジファンドは、AIアルゴリズムで株取引の迅速化などを行っているヘッジファンドに、スピードの点で後れを取り、もうけを奪われてしまいますよね。つまり、AIは「ゼロサムゲーム」なのです。AIを活用しているヘッジファンドは、より速く、より良い取引ができる可能性が高いのです。

 米国で、金融業界とともに、AI活用がもっとも進んでいる業界である法律サービスセクターも同様です。リサーチにAIを使い、過去の判例や事例などを素早く見つけ出す法律事務所と、いまだにハードコピーでリサーチしている法律事務所を想像してみてください。もちろん、ほとんどの法律事務所は、もはやリサーチをハードコピーに頼ることなどありませんから、これは、あくまでも例え話です。しかし、仮にそうした法律事務所がまだ残っているとしたら、競争優位性の点で大いに不利だということがわかるでしょう。

 このようなAIと競争優位性の関係は、ロボット導入の例からも見えてきます。

 ロボットを導入している企業は、導入していない企業に比べ、パフォーマンスが高く、雇用の成長も早まる傾向があります。一方、ロボットを導入していない企業は、会社が縮小する傾向にあり、場合によっては倒産の憂き目に遭います。もちろん、前者は「勝ち組」であり、後者は「負け組」です。

 つまり、ロボットを導入していない企業が自社を犠牲にして、導入している企業の成長を後押しするという「ゼロサムゲーム」が展開されているのです。

 新しいテクノロジーやDXに積極的な企業は生き残り、後ろ向きの企業は業界内で取り残される。それは歴史を振り返っても、明らかです。今も蒸気力で稼働している工場はありますか? ないですよね。そうした工場はすべて廃業に追い込まれ、電力稼働の工場が取って代わったからです。

 AIも同じことです。「AIを導入して事業に活用するためにはどのような組織変革が必要なのか」を考え、実行する――。それが、生き残る企業です。

 企業の競争優位性は、新しいテクノロジーの使い方を見いだせるかどうかにかかっています。つまり、「AIをどのように活用するか」です。(後編へ続く)

シーマンズ准教授が分析するAIのリスクや問題点、ビジネスパーソンがAI時代を生き残るための戦略とは? 近日公開予定のインタビュー後編もぜひご覧ください。