イノベーション、イノベーション、イノベーション……日本企業の多くの経営者やビジネスパーソンが必死に追い求めて努力しているが、なかなか結実できない。なぜか。どうすればいいのか。「イノベーションの父」と呼ばれるシュンペーターは、どう考えたか。『資本主義の先を予言した史上最高の経済学者 シュンペーター』(日経BP)の著者、名和高司氏をインタビューした(聞き手/ダイヤモンド社 ヴァーティカルメディア編集部 編集長 大坪亮、構成/嶺竜一)。

日本企業を救うシュンペーター理論、イノベーションの本質は「スケール」にある名和 高司(なわ たかし)
京都先端科学大学ビジネススクール教授、一橋大学ビジネススクール客員教授
東京大学法学部卒、三菱商事に約10年間勤務、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカースカラー授与)。シュンペーターおよびイノベーションを主に研究。2010年までマッキンゼーのディレクターとして約20年間コンサルティングに従事。ファーストリテイリング、味の素、SOMPOホールディングスなどの社外取締役も兼任。近著『資本主義の先を予言した史上最高の経済学者 シュンペーター』(日経BP)のほか、『パーパス経営――30年先の視点から現在を捉える』『企業変革の教科書』(ともに東洋経済新報社)、『稲盛と永守――京都発カリスマ経営の本質』『経営変革大全――企業を壊す100の誤解』(ともに日本経済新聞出版)など著書多数。

――ヨーゼフ・シュンペーター(1883~1950)は、「イノベーション」「新結合」「創造的破壊」「企業家」(アントレプレナー)など、経済発展や資本主義を考える上で重要な概念を数多く打ち出しました。とはいえ没後70年超です。なぜシュンペーターなのでしょうか。

 名和高司(以下、略) 今、企業経営において、「パーパス(Purpose=企業の存在意義)」に基軸を置いた「パーパス経営」が注目されています。また、その流れで、米国ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が2011年に提唱した「CSV(Creating Shared Value、経済価値と社会価値、2つの共通価値の創造)」が再び注目を集めています。

 気候危機や格差拡大など深刻な課題が山積する中、社会意識の高い世代が台頭し、経済価値を創造すると同時に、社会課題を解決して社会価値も高めるビジネスとして、このような考え方に基づく経営が共感を得ているのだと思います。

 しかし、現在の日本企業を見ると、これらの理論が理想論もしくはきれい事に終わってしまうのではないかと懸念しています。なぜなら、社会価値だけでなく、経済価値を創出しないと、ビジネスは持続可能ではないからです。そして、持続可能となるために必要なのがイノベーションです。

 持続的成長を実現するために、イノベーションが必要だと考え、懸命に努力している経営者やビジネスパーソンも確かにいます。しかし、多くはイノベーションを誤解し、徒労に終わっています。

 この状態を抜け出すため、シュンペーターが提唱したイノベーションの本質を提示し、正しい方法での努力に転換してもらいたい、と考えたのです。

――イノベーションを誤解しているとは、どういうことでしょうか。

 日本人にはイノベーションに対する5つの誤解があります。第一に、イノベーションを外発的なものとしていること。第二に、シュンペーターの説く「新結合」を新しいもの同士の結合と捉えていること。第三に、技術革新と思い込んでいること。第四に、イノベーションの起こす方法として「両利きの経営」を盲信していること。第五に、無から有を生み出す、つまり「0→1」だけをイノベーションと考えている、ことです。

 この5つの誤解の裏返しに、イノベーションの要諦があります。順に説明しましょう。