ダライ・ラマ、ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、オードリー・タンなどの同時通訳を務めてきた田中慶子さんが、日常やビジネスで役立つ「生きた英語」をやさしく解説! 「英語に対する苦手意識を払拭(ふっしょく)できない」という悩みを持つ人は多いと思います。今回は、そのような悩みを持つ人たちへ、ピーター・センゲ氏の通訳を務めた際の経験をもとに、アドバイスをしてもらいます。
テクノロジーの本質は
「Enable」と「Constrain」
同時通訳者、Art of Communication代表。ダライ・ラマ、テイラー・スウィフト、ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、U2のBONO、オードリー・タン台湾IT担当大臣などの通訳を経験。「英語の壁を乗り越えて世界で活躍する日本人を一人でも増やすこと」をミッションに掲げ、英語コーチングやエクゼクティブコーチングも行う。著書に『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』(KADOKAWA)、『新しい英語力の教室 同時通訳者が教える本当に使える英語術』(インプレス)。
先日、ダイヤモンド社のオンラインイベントにて、『学習する組織』の著者であるピーター・センゲさんの講演の通訳を担当させていただきました。
センゲさんは、テクノロジーの本質は、「Enable and Constrain」(何かを可能にし、何かを制約もする)だと説明されていました。テクノロジーというのは、私たちの生活に便利さをもたらしてくれる一方で、さまざまなマイナス面もある。つまり、トレードオフの関係であると。
そして、それはすべてのツールにおいて同様であり、例えば、ペンというツールは字を書くことを可能にするが、使いこなしているうちに字を書くことに手いっぱいで、絵を描くことが苦手になってしまうこともあると言います。
さまざまな便利なツールに囲まれている現代において、私たちはその便利さの代償として、知らないうちに何かを失っているのかもしれません。
講演の中で、「テクノロジーが可能にしたこと」の例として、コロナ禍でオンライン化が急速に進み、世界各国に散らばる教育者間でネットワークの構築が実現したこと、オンラインでのコミュニケーションやワークショップの成功などを挙げていました。
「人と会う」「誰かと一緒にいる」という人が安らぎを感じる行動が制限されるなか、オンラインでのコミュニケーションを通じて、これまでとは違う形で、グローバルでのつながりや課題の共有が進んだというお話は、とても興味深いものでした。
センゲさんは、オンラインでのコミュニケーションは便利ではあるけれど、実際に会うことと「同じ」ではないと言います。これは、多くの人が実感していることでもあるはずです。
とはいえ、リアルと比較して、オンラインでのコミュニケーションの劣っている点ばかりを見ていても仕方ありません。先述のような、世界各国の教育者間ネットワークの構築は、コロナ禍という移動を制限される状況で、成し遂げたい目的に対し、「できること」を模索した結果、うまくいったケースなのだと思います。
私は通訳をしながらセンゲさんの話を聞いていて、このことは、「英語」というコミュニケーションの「ツール」についても通じるものがあると感じました。