【ずるい仕事術】サラリーマンがやりたくないことをやらずに成果を出す方法

いま話題のベストセラー書籍をつくった編集者に、その本や著者さんの魅力を聞いていく連載「話題書の編集者に聞く」。今回は、テレビプロデューサーであり演出家、作家、ラジオパーソナリティーなどとして多方面で活躍する佐久間宣行さんが、独立して初めてまとめたベストセラー書籍『佐久間宣行のずるい仕事術』について、担当編集の石塚理恵子さん(ダイヤモンド社)に聞きます。エンターテインメント業界に限らず、多くのビジネスの現場で通用する「誰とも戦わず、やりたくないことをやらずに、抜きんでる″ずるい仕事術”」の魅力と制作秘話をご紹介します。(構成:書籍オンライン編集部)

――書籍『佐久間宣行のずるい仕事術』は発売5日で8万部を超えるベストセラーに! この本は、どんなきっかけで企画されたのですか?

【ずるい仕事術】サラリーマンがやりたくないことをやらずに成果を出す方法『佐久間宣行のずるい仕事術』(佐久間宣行 著、ダイヤモンド社)

石塚理恵子(以下、石塚) わたしは小学校の頃からラジオが好きで、会わせてくれると言われたらアイドルより吉田照美さん(ベテランの人気ラジオパーソナリティ)に会いたい子どもでした。著者の佐久間宣行さんもラジオ「オールナイトニッポン0」で知り、「サラリーマンでありながら深夜ラジオのパーソナリティをつとめられ、会社ではなく個人の名前で驚くほどの数のファンを抱えられるって羨ましい!」「こんな働き方をしたい!」と思う方は多いはず、と企画しました。

 わたしは企画ありきで著者の方を探す場合と、著者ありきで企画を立てる場合が半々ですが、今回は著者ありきで企画を立てた形になります。なぜなら大ファンだったからです(笑)。

――趣味と実益を兼ねた企画で、いっそう熱が入りそう(笑)! 著者の佐久間さんは当時、テレビ東京のプロデューサー(のちに退社してフリー)で、「ゴッドタン」「あちこちオードリー」などを担当しておられましたが、企画を打診したときの反応はいかがでしたか?

石塚 オファーさせていただいたのはテレビ東京を退社されるそのタイミングでしたので、想定内ではありましたが、多くの出版社から執筆オファーがあったそうです。そこで佐久間さんのジャッジをお待ちすることになったのですが、今回は「ビジネス書としての仕事術の本」という企画内容で選んでくださった、とうかがいました。

 個人的には佐久間さんの「企画術」や「発想術」、佐久間さんがお詳しい「エンタメ(エンターテインメント)コンテンツ」にとても興味があったのですが、こうしたわたしの興味はニッチなので、より多くのみなさんが佐久間さんから知りたいことはなにかを考え、このテーマでオファーをさせていただきました。

 とはいえ佐久間さんのファンは小学生から60代以上まで幅広く、もちろんエンタメファンが多いことは容易に想像できたので、下手にエンタメから離れてよいものかと、テーマ選びにはとても迷いました。ただベストな企画はなにかを考えると、やはり多くのビジネスパーソンに刺さる「仕事術」というこのテーマであるような気がして、ここに賭けることを決めました。

――より広い層に響くテーマにして大成功だったのでは! 帯コピーの「誰とも戦わずに抜きんでる」というのは、多くの方にとって理想だろうなと思いました。

石塚 編集者の仕事をサッカーにたとえると、著者の方に「どのゴールに向かってボールを蹴っていただくか」を決める仕事だと思っています。ここをまちがえると、ゴールネットは決して揺れない。その意味で今回のテーマ選びは、「ここでほんとうに合ってるかな」と勇気がいるむずかしい選択でした。

 出さなかったほうの企画の結果を知る術はありませんし、今回のテーマ選択が正解だったかはわかりません。ただAmazonを見ていると、すでに1200(!)以上のレビューがついていて、そのどれもが「このテーマを選んでよかった」と感じさせてくれるものでした。これを見て少しだけ肩の荷がおりましたが、これも著者のお力だと思います。

本の表紙にも仕掛けが……

――レビュー1200はすごいですね。本を開くと、佐久間さんが普段もっているカバンの中身や、メンタル回復スポット&ドラマ・本の紹介、オフショットぽいカバーの写真など、ファンの方が喜ばれそうなコンテンツも入っていつつ、でも全体のなかで実はそんなに多くないんですよね。仮に佐久間さんのことをよく知らない方が手に取った場合も、ビジネスにすぐ役に立ちそうな内容をわかりやすく丁寧にまとめてある印象を受けました。この本をつくるうえで、特に工夫した、あるいは苦労された点を教えてください。

【ずるい仕事術】サラリーマンがやりたくないことをやらずに成果を出す方法石塚理恵子(いしづか・りえこ)
書籍編集者(ダイヤモンド社書籍編集局第四編集部所属)
2020年入社。コロナ禍に入社し本書はまだ3冊目。いまはお金の本を製作中。ラジオとゴルフが好き。楽しくて売れる本の企画をいつも募集しています。@RIERIECO

石塚 この本は私と同じように「佐久間さんが大好きな人」たちとつくらせていただきたいと考えて、制作チームを組みました。デザインもいつもお世話になっている信頼できるデザイン事務所に連絡をして「佐久間さんのファンの方はいませんかー?」と聞いてみたり。すると、どこにもかならず佐久間さんのファンはいて、その方々に「お願いします!」となりました。

 ちなみにこの本は、カバーを外すと茶色の表紙が現れますが、これは佐久間さんが明治の「メルティキッス」がお好きとのことで、メルティキッス色になっています。デザイナーの愛を感じます(笑)。

――なんと!表紙はカバーの内側なので普段はほとんど見えない部分ですから、デザイナーさんのこだわりと愛を感じますね。

石塚 はい、ほんとうに。その一方で、制作メンバー全員が佐久間さんのファンなので、その熱量の加減には注意しました。たとえば私の場合は、放っておくと中身も装丁もなにもかもに佐久間さんのお写真を使うなど、「佐久間ワールド全開」のディレクションをする恐れがあるので、デザイナーにも「私がそうなったら止めてくれ」とお願いをしてありました(笑)。

――石塚さん、めちゃくちゃ冷静ですね。ファンだけど編集者の仕事は忘れない(笑)。 

ファンブックのみにはしない

――制作チーム全体で「佐久間愛」濃度の調整がすばらしく効いていたんですね。

石塚 はい。というのは佐久間さんをより多くの方に知ってほしいと思ったからです。ファンのみならず、この本で佐久間さんをはじめて知って「ラジオを聴いてみよう」「テレビ東京の番組を観てみよう」となる人を増やしたいと思いました。

 そのためには″ファンブック”にしすぎないことが大事になります。あまりに著者色が濃すぎると、ファン以外の方が手に取りにくくなってしまうので、その塩梅をみることが大切でした。

 でも今回はこの塩梅の調整でストイックになりすぎて、最終段階で「佐久間臭」が薄くなりすぎて「これはやばい!」となりました(笑)。

――「佐久間臭」…(笑)。

 そこで急遽コラムページをつくり、そちらでは佐久間さんのファンの方々にも喜んでいただけるよう、佐久間さんのかばんの中身や、ゆかりの方々――たとえば、おぎやはぎさんや放送作家のオークラさん、上司だったテレビ東京の伊藤隆行さん、「オールナイトニッポン0」のディレクター齋藤修さんにご登場をお願いしました。

【ずるい仕事術】サラリーマンがやりたくないことをやらずに成果を出す方法佐久間さんのカバンの中身を覗けるコラム

 佐久間さんからは「俺のかばんの中身なんて誰が見たいの? おもしろいの?」と真顔で言われて震えましたが、「私が見たいです、おもしろいです!」とお答えしました(笑)。

――あのカバンのコーナーは「こんなものを持っておられるんだ~」と興味津々で楽しく拝見しました。わたしは佐久間さんの熱狂的ファンとはいえない部類ですが、海外女性誌のSNS動画で、女優さんやモデルさんがバッグの中身を取り出しながら説明している企画が好きでよく見ているので、まったく違和感なく面白かったです。バッグは、ブランドものとユニクロのを持ってるんだ~とか(笑)。

自分の名前で勝負できて、それを楽しめる人生を手に入れる

――目次をみると、「仕事術編」「人間関係編」「チーム編」「マネジメント編」「企画術編」「メンタル編」とあらゆる仕事に共通するテーマが並んでいて、そのなかに『「お前ならできる」をうのみにする』『「陰口」はコスパが悪い』……など実用的なトピックが立ててあります。この構成についてはスムーズに決まったのですか?

石塚 私がテレビで見ていた佐久間さんのすごいところは、サラリーマンなのに好きなことができていて、毎日楽しそうで、会社の外でも好きなことで活躍されていて、どのシーンでも結果が出ている、というところでした。そこで、コンテンツについてはその要因は何なのかを中心にお書きいただきました。

 上げていたいだたお原稿を拝読すると、おっしゃるように実用的で「仕事を楽しそうにやるのは、その仕事をくれた人に感謝を表し、次も楽しい仕事をもらうチャンスをつかむため」とか、「苦手な人との仕事では、そのシチュエーションをコントと捉えて、相手によって「コント:性格の悪い人」「コント:自己中クライアント」などと心の中で想定することで、状況を楽しみ感情を乱す回数を減らす」など、ユニークで戦略的な内容満載の本になっていました。

 会社の内でも外でも自分の名前で勝負ができ、それを楽しめる人生って、ほんとうに羨ましく思います。それを手に入れるには「なるほど、こうやればよかったのか!」と個人的にも多くの学びをいただきました。