BCGがI型糖尿病患者ではコロナの感染予防効果があるという研究成果が発表されたBCGがI型糖尿病患者ではコロナの感染予防効果があるという研究成果が発表された(写真はイメージです)  Photo:PIXTA

BCGは、やはりコロナに効くかもしれない――。新型コロナウイルス感染症による死亡率が国によって差があることから、BCGワクチンの接種が「有効」かもしれないという仮説に新展開だ。8月15日、I型糖尿病患者を対象とした治験で、「感染予防効果がある」という研究成果が発表された。東北大学副学長で、東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授に、緊急寄稿してもらった。

BCGのコロナ感染予防効果の検証結果が公表
研究開始は2020年の「2年前以上前」から

 日本で最初の新型コロナウイルス感染者が見つかった2020年1月15日から、2年7カ月が経過した。このウイルスは次々と変異し、オミクロンBA.5株を中心とした7月からの感染第7波は桁違いに大きく、行動制限のない夏季休暇時期の人流も反映し、現時点(8月20日)で全国の感染者は約1700万人に上る。

 最初の緊急事態宣言の頃には、1年くらいでのコロナ明けを夢見ていたものの、今しばらくは「ウィズコロナ」を念頭に行動しなければならない。

 そんな中、結核用のワクチンであるBCGの「オフターゲット効果」として、新型コロナウイルス感染予防に関する検証結果論文が、8月15日に米科学誌「Cell Reports Medicine」に掲載された(*1)。調査を行ったのは、米国ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院のデニース・ファウストマン博士が率いる研究グループだ。

 この治験調査の対象となったのは、米国在住でI型糖尿病を患う144人で、世界中でコロナ禍が始まった20年の1月から開始された。治験はランダム化比較試験(RCT)として行われ、96人はTokyo-172株のBCGを「2年以上前」に接種され、48人はプラシーボ(偽薬)のワクチンが接種された患者であった。

「え?ちょっと待って!2020年の2年前というと、新型コロナウイルスの影も形も見えない頃ではないの?」と、ここで疑問に思った方がいるかもしれないので、この臨床研究の背景を説明しておきたい。