人間になじみ、心をほぐす「柔らかさ」の価値

――その分、応用の可能性も広いのでしょうか。

ソン 非常に広いです。人間は皮膚も内臓も柔らかいですよね。だからロボットを柔らかくすると、人間にとても親和的になります。消化できる材料で作れば食べられるし、肌になじむから着られるし、体にくっつけたり、包まれたり……。

 家電にソフトロボットをくっつけたら、握手もできるし、ウンウンとうなずくようなジェスチャーもできる。人間とのインタラクションが一気に広がるんです。実際、硬いアバターロボットにソフトロボットを組み合わせたロボットも商品化されていますし、今回のインフレータブルロボットでも既存ロボットとのコラボレーションも考えています。

上岡 柔らかいデバイスは環境にも溶け込みます。私は以前、「布に織り込まれたRFIDタグ」で、兵庫県の城崎温泉の電子入湯システムのサービスデザインの研究をしたことがあります。観光客の回遊状況を把握する仕組みなんですが、風情ある温泉街の真ん中で、カードでピッとやるのは無粋ですよね。そこで、浴衣とのれんに布状のICタグとアンテナを仕込んで、浴衣を着た温泉客がのれんをくぐるだけでデータが集められるように設計したんです。土地全体の環境や風情を損なうことなくテクノロジーが人に寄り添うデザインにできるのは、柔らかいデバイスならではの特徴かもしれません。

ソン これまでのロボティクスは視覚と聴覚が中心だったけど、ソフトロボットなら心地良い触覚を生かせますよね。優しく包まれたり、ぬくもりを感じたりと、ほっこりした経験は誰にでもあると思います。さりげなく日常に存在する手触り、ぬくもりなどの感覚も、テクノロジーに組み合わせやすくなります。

――プロダクトデザインにおいて「機能的な価値」と「情緒的な価値」をバランスよく両立することは大きな課題です。これまでの話を聞いていて、ソフトロボットは情緒的価値のデザインを考える上で大きなヒントになると思いました。

作って、触って、感じて――ソフトロボットから考える未来のインターフェース「Puff me up! 身体から生えてくる柔らかい分身ロボット」 写真提供:ソンヨンア(法政大学)+鳴海拓志(東京大学)+新山龍馬(明治大学)

ソン それはありますね。柔らかいというだけで、親しみを感じて触りたくなりますから。<poimo>という、折り畳んで運べて、使うときに空気で膨らませて乗ることができるモビリティーの開発に関わったんですが、デモをすると、柔らかそうな外見やいろんなデザインに引かれて乗り物が苦手な人も「乗りたい!」となります。

 以前、手に装着すると膨らんで、指の動きを拡張できる巨大なマジックハンドみたいなソフトロボットを発表したときは、偉い先生たちも喜んでふわふわの手を付けてくれて、ずっと互いの頭をナデナデし合ってましたね(笑)。柔らかいものには、心も柔らかくする効果があるんですね。

――今ある商品を柔らかくするだけでも、体験価値が変化しそうですね。

ソン 変化しますね。私は以前、スマートスピーカーをぬいぐるみでくるむと、情報の受け取り方がどう変化するかを研究したことがあります。結論から言うと、スピーカーが柔らかくてかわいい姿をしていると、間違った情報を伝えても、ユーザーの信頼度は他のデザインのものより低下しないという結果が出ました。