混沌を極める世界情勢のなかで、将来に不安を感じている人が多いのではないだろうか。世界で起きていることを理解するには、経済を正しく学ぶことが重要だ。とはいえ、経済を学ぶのは難しい印象があるかもしれない。そこでお薦めするのが、2015年のギリシャ財政危機のときに財務大臣を務めたヤニス・バルファキス氏の著書『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』だ。本書は、これからの時代を生きていくために必要な「知識・考え方・価値観」をわかりやすいたとえを織り交ぜて、経済の本質について丁寧にひも解いてくれる。2022年8月放送のNHK『100分de名著 for ティーンズ』も大きな話題となった。本稿では本書の内容から、なぜ経済を学ばなければならないのかという理由を伝えていく。(構成:長沼良和)
「格差」はどんどん広がっている
「どうして世の中にはこんなに『格差』があるのか?」と疑問に思ったことはないだろうか。
世界には一国の国家予算よりも大きな富を持つ金持ちがいる。反面、食べるものが手に入らず、今日1日生き延びるのが精一杯なほど貧しい人がいる。この格差は年々広がっているとすら言われている。
大金持ちと貧しい人との格差がなければ、誰もがあくせく働かなくても豊かな生活を楽しめるようになるかもしれない。
みんな最初は裸一貫で生まれてくるのだから本来平等であるはず。だから、嫉妬も争いもない良い社会が築けると信じて疑わない人もいる。
いずれにせよ、格差があることに怒っている人は多そうだ。
みんなが経済を学ぶことでより良い社会ができる
世界の格差は、経済的な理由によるものである。「なぜ格差が生まれるのか」を理解することは、良い社会をつくる第一歩。
それには経済をきちんと学び、みずから考え、意見を言うことが重要になる。
経済は意外なところから生まれた
経済について学ぶにあたって、経済の誕生から振り返ってみよう。
歴史をひもといてみると、経済が生まれたのは1万2000年前に人類が農耕をはじめたことに由来する。
人々が農耕をはじめたのは、食糧が底をついて多くの人が飢えて死にそうになったから。生き延びるために必死に土地を耕して、作物を育てるしかなかった。
その後、試行錯誤を繰り返し、農耕の技術は洗練されていく。おかげで効率的に大量の穀物を収穫できるようになり、人々は飢えから解放された。
そして、農耕技術が発展により効率的に農作物を収穫できるようになると、余剰が生まれるようになった。
この「余剰」が経済の基本になる。農耕の発展により農作物の余剰が生まれ、余剰を増やしていく過程で経済が大きく動き出していく。
余剰が通貨を生み、余剰が国家を生んだ
人類が農耕をするようになると、最初のうちは食べる分と来年植える種以外のものが余剰だった。そのうち計画的に余剰を増やし、別の地域と別の種類の食糧と交換するようになる。
そのやりとりは物々交換だったが、次第に通貨を使ってやり取りすることでグローバルな規模で貿易ができるようになる。
通貨を使うにあたって、数字や文字、債務という便利なものも人類は使うようになり、経済は高度になっていく。
さらに農作物の余剰を守るために軍隊が配備され、国家という概念が生まれた。農耕で余剰が生まれたからこそ、国家が生まれたといえる。
このように、経済とは農作物の余剰を守るところからはじまっている。
「当たり前」を疑うことが大切
経済を学ぶ際に重要なことは「当たり前」を疑うこと。
アフリカの飢餓に苦しむ人々の映像を見て憐れむと同時に、その理不尽な状況に怒りを感じることもあるだろう。
しかし、彼らが安い賃金で栽培してくれた綿花の洋服を、私たちは当たり前のように着ているかもしれない。
知らない間に彼らから搾取して、豊かな生活をしていることに気づいていない可能性がある。人は自分が持っているものを当たり前だと思い込む傾向があるからだ。
「当たり前」の裏には格差の種が潜んでいるかもしれない。なぜ格差があるのかを理解して、自分はどうすべきかを考えて行動することが重要だ。
そのためにも経済の本質を学ばなければならない。