新型コロナウイルス禍により、日本経済は大きなインパクトを被った。足もとでは、世界的な利上げ観測やロシアのウクライナ侵攻によって円安、インフレが進行し、予断を許さない状況が続く。こうした不確実性を乗り越え、経営を「進化」させていくために、企業はどんな指針を持つべきか。一橋大学大学院 経営管理研究科(一橋ビジネススクール) 国際企業戦略専攻の楠木 建教授に、競争戦略の要諦を聞いた。前編は、日本経済を覆う不確実性の正体と、企業が被った影響の本質を考察する。(聞き手/ダイヤモンド社 ヴァーティカルメディア編集部 副編集長 小尾拓也、構成/ライター 奥田由意)

コロナ禍でもブレない競争戦略の強み、「今は平時」と発想を転換せよ楠木 建
一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻教授。1964年生まれ。東京都出身。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。1989年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)など著書多数。近著に『絶対悲観主義』(講談社)

変化の中でもブレない
優れた競争戦略とは

――コロナ禍による不確実性の高まりの中で、多くの企業が苦境に陥りました。楠木教授は、著書『ストーリーとしての競争戦略』などを通じて、企業が明快なストーリーを持った戦略を立てることの重要性を唱えられてきました。コロナ禍以前と比べて、優れた競争戦略の在り方に変化はあったのでしょうか。

 優れた企業には優れた戦略があります。優れた戦略を持ち、競争優位性があった企業にとって、コロナ禍は本質的なインパクトにはなりません。競争戦略は論理です。論理は外的要因や外的環境の変化に左右されません。

 私は歴史上、先行きが確実にわかっていた時代など一瞬たりとてなかったと思います。人間社会は人間の諸活動によって成立しています。人間同士に利害関係がある以上、常に色々な問題が起こり、安定はない。そして、人間が社会活動をしていれば、パンデミックや気候変動などの自然現象に逢着するのも当然です。

 2020年に刊行した『逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知』の準備のために、近過去の新聞や経済誌を大量に読みました。戦後だけでも、コロナ禍までに20回以上、「戦後最大の危機が起きた」と報じられています。このことから見ても、人間社会に問題はつきものです。

「環境の変化がますます激しくなり」「昨今のような激動期にあって」「100年に一度の」などという枕詞で物を言うのですが、時代は常に動いている。「今はVUCAの時代で大変だ」という現代人を明治時代の人が見れば「甘い」としか言いようがないでしょうし、明治時代の人を戦国時代の人が見れば、「自分たちの生きにくさとは比べるべくもない」と思うでしょう。

 そうした変化の中で翻弄されている企業には、有効なアクションはとれません。一方で、優れた戦略を持つ企業は変化の中でもブレない軸足を持っています。