「高齢者の診察では靴下を脱がす」全米トップ病院の医師が語る意外な理由撮影/金栄珠(講談社写真部)

超高齢化社会を迎える日本で、高齢者を専門とする老年医学や高齢者医療に注目が集まっている。人生100年時代に備えた人々の意識も「ただ長生きする」から「いかに健康寿命を延ばすか」にシフトしたのではないか。とはいえ「老い」は自分にとって経験したことのない未来であり、何をすべきかを正しく判断することは難しい。米国内科専門医・老年医学専門医の山田悠史氏は著書『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』の中に、“健康な老後につながる指針”をふんだんに詰め込んだ。山田医師によると、高齢者になって活き活きと過ごすには、「体のある部位」が大きく関係するという。インタビューでは、全米病院ランキング「老年医学」部門3年連続1位(U.S.News)である勤務先の大学病院での、驚きの診察指標も交えながら語ってもらった。(取材・文/金澤英恵)

高齢者にとっての転倒は「致死率の高い事故」

――山田先生はアメリカの大学病院で診察されていますが、高齢者の診察で注視されることはありますか。

山田悠史医師(以下、山田) 高齢の患者さんを診察する際、私はまず「足」に注目します。診察室にお呼びした患者さんが歩いてくる様子を見て、どんな靴を履いているか? 歩き方はどうか? といった点を観察することから診察がスタートしていると言ってもいいかもしれません。

――内科医である山田先生が、なぜ「足」なのでしょうか?

山田 不思議に思われるでしょうが、これには高齢患者の方に適切な医療を提供する「老年医学専門医」としての大きな理由があります。みなさんもご存じのように高齢になると「転倒」が増える傾向にあります。たった一度の転倒が大きな骨折を招き、寝たきりになってしまうことも珍しくありません。65歳以上の2〜3割の人は1年に1回以上転倒を経験するとされ(※1)、そのうち太ももの骨を骨折した高齢者を追跡すると約3割もの人が1年以内に何らかの理由で命を落としているという報告もあります(※2)。高齢者にとっての転倒は、“致死率の高い事故”という側面をもった怖いものでもあるんです。

 ですから私にとって高齢患者さんの足を見ることは、寝たきりの状態や命の危険を脅かす転倒リスクを極力低減させるために、欠かすことのできないチェックポイントなんです。

――高齢者向け医療は病気の治療でなく、転倒を未然に防ぐことがいかに大切かよく分かるお話です。具体的には足のどのようなところを見ているのでしょうか。

山田 例えば靴の一部が壊れていたり、靴底が左右不均等に擦り減っていたりしたら、スムーズな歩行が阻害されて転倒リスクは上昇すると言えるでしょう。私の患者さんで「最近よく転倒する」と相談に来られた方の足元をよく見たらサンダルのひもが切れていて、靴そのものが原因だったというケースもありました。高齢になり特に足元のメンテナンスがおろそかになる人もいて、「いつもの靴」が転倒を招いてしまうこともあるんです。

 だからまずは靴と歩き方をチェックする。さらに診察室のイスに座られたら「靴下」を脱いでもらい、足そのものの状態を見せてもらうようお願いしています。