突然ですが、「嘔吐恐怖症」を知っていますか?
聞き慣れない言葉かもしれませんが、嘔吐恐怖症とは「吐くのがこわい」病気です。
気持ち悪くなることや吐くのがこわいことから、
・人と食事をすることができない
・電車や飛行機などの乗り物に乗ることができない
・(おえっとなるのがこわいので)歯磨きができない、歯医者に行けない
・つわりがこわくて妊娠をためらう、結婚に前向きになれない
・日常生活で吐くことに関連すること(文字やテレビなどの映像も含め)を見るのがこわく、避けてしまう
などの傾向があり、日常生活が大きく制限され、実は多くの方が悩んでいます。
それにもかかわらず、認知度の低さから克服方法がわからず困っている方、「やらない方がいいこと」を、知らず知らずのうちにやってしまう方が多いのです。また、当事者以外の人も、知らないことで「他人に対して発症のきっかけを与えてしまう可能性」もあります。
これらの症状に悩む方のために、これまで1000人以上症状改善をサポートしてきた山口健太氏(一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事)が『「吐くのがこわい」がなくなる本』を発売。嘔吐恐怖症に寄り添うはじめての本である本書から、一部を紹介します。
日常的な「えずき」がこわい
私は相談に乗っていて「喉や胸が気持ち悪くなり、外でも家の中でもえずいてしまいます。食事前や何かをしなければならないというような緊張や不安に襲われたときが多いですが、日常生活で突然えずくこともあります。それがこわいです」というように「えずくことがこわい」という話を聞くことがあります。
えずきは、吐瀉物こそ出ませんが、体の動きとしては「嘔吐」に近いので、強い恐怖を感じるでしょう。
私自身も、学生時代にストレスが過多になっていたときに、くしゃみをするとその勢いで、えずくことがありました。(実際に吐くわけではないのですが……。)
他にも、これまで相談に乗っていて、歯を磨いているときや、大笑いした後によく起きるなど、色んなケースを聞いてきました。
「えずくかもしれないから、歯を磨くのがこわい」という話も聞いたことがあります。
歯医者に行けないAさん
50代女性のAさんには「歯医者に行くのがこわく、歯の治療ができない」という悩みがありました。人は「嘔吐反射(または、異常絞扼反射)」といって、口腔内に異物が入った際に、それを外に出そうと「おえっ」と吐き気を催すことがあります。
もしかしたらあなたも、歯医者さんでの治療中などで経験したことがあるかもしれません。また、人によっては、歯を磨いているときなどでも、歯ブラシが口の奥の方に入ることで、この反射が起きることがあります。
Aさんの場合は、この反射への恐怖がとても強く、歯の痛みが出ても歯医者になかなか行くことができませんでした。それゆえに、十分な治療ができずに、虫歯なども長期間放置されてしまうことに……。
結果的に歯のほとんどがボロボロになり、やっとの思いで歯医者に出向いても「うちでは治療できない」と言われ、ようやく治療できるところを見つけても「治療するのには数十万円かかる」と言われるほど、ひどい状況になっていました。Aさんのように、嘔吐反射がこわくて歯医者に行けず、悩んでいる人もたくさんいるのです。
こわくなったときの合言葉
ここで1つおまじないのようなものとして、効果が高いものがあるので紹介します。
それは「仮にえずくことがあったとしても、実際に吐いたりすることはない」と、自分に言い聞かせることです。
これは事実そうであり、基本的には「胃袋から食べ物を出す必要性」がなければ、吐き気があってえずいても物は出ないのです。
逆に言えば、物を出す必要がある場合は物が出ます。身近な例を挙げると「有害なものを食べて吐き出す必要がある場合」、「胃袋のキャパオーバーで吐き出す必要がある場合」、「アルコールが分解できず吐き出す必要がある場合」などがイメージしやすいはずです。
体全体のことを考えたときに、食べた量が少なかったりすれば、胃袋にあるものから栄養をちゃんと吸収する必要があるので、出すわけにはいきません。
ですから「別にえずいたとしても、物が出るわけじゃないから大丈夫」という認識も持っておくことは大切です。
(本書は『「吐くのがこわい」がなくなる本』〈山口健太著、福井至、貝谷久宣監修〉を抜粋、編集して掲載しています)
★本書は以下に当てはまる方におすすめです。ぜひチェックしてみてくださいね。
・「吐くのがこわい」「気持ち悪くなるのがこわい」と日常で感じることが多い人
・人が吐く場面や吐瀉物などに尋常ではない恐怖感を抱く人
・嘔吐恐怖症のカミングアウトをしたいが、どうすべきか迷っている人
一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事、カウンセラー、講師
2017年5月に同協会を設立(アドバイザー:田島治杏林大学名誉教授、はるの・こころみクリニック院長)
自身が社会不安障害の一つの「会食恐怖症」に悩んだ経験を持ち、薬を使わず自力で克服する。その経験から16年12月より会食恐怖症の方への支援活動、カウンセリングをはじめる。その中で関連症状の「嘔吐恐怖症」の克服メソッドを研究。これまで1000人以上の相談に乗り改善に導いてきた。主催コミュニティ「おうと恐怖症克服ラボ」では、会員向けに克服のための情報を発信している。著書に『会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと』(内外出版社)、『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)などがある。
【監修】福井 至(ふくい・いたる)
東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科・東京家政大学大学院教授。和楽会認知行動療法センター所長、公認心理師・臨床心理士、博士(人間科学)
1982年、早稲田大学第一文学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程心理学専攻単位取得退学。札幌大学女子短期大学部助教授、北海道浅井学園大学人間福祉学部助教授、東京家政大学文学部助教授を経て、2008年より現職に至る。編著書に、『図説 認知行動療法ステップアップ・ガイド-治療と予防への応用』(金剛出版)、『図解による学習理論と認知行動療法』(培風館)などがある。
【監修】貝谷久宣(かいや・ひさのぶ)
京都府立医科大学客員教授。医療法人和楽会理事長、パニック障害研究センター所長。医学博士
1968年、名古屋市立大学医学部卒業後、ミュンヘンのマックス・プランク精神医学研究所に留学。岐阜大学医学部助教授、自衛隊中央病院神経科部長を経て、93年、なごやメンタルクリニック開院。97年、赤坂クリニック理事長となる。パニック障害や社交不安障害治療の第一人者として、幅広く活躍中。『健康ライブラリー イラスト版 非定型うつ病のことがよくわかる本』(講談社)、『よくわかるパニック障害・PTSDー突然の発作と強い不安から、自分の生活をとり戻す』(主婦の友社)、『気まぐれ「うつ」病ー誤解される非定型うつ病』(筑摩書房)など、著書・監修書多数。