突然ですが、「嘔吐恐怖症」を知っていますか?
聞き慣れない言葉かもしれませんが、嘔吐恐怖症とは「吐くのがこわい」病気です。
気持ち悪くなることや吐くのがこわいことから、
・人と食事をすることができない
・電車や飛行機などの乗り物に乗ることができない
・(おえっとなるのがこわいので)歯磨きができない、歯医者に行けない
・つわりがこわくて妊娠をためらう、結婚に前向きになれない
・日常生活で吐くことに関連すること(文字やテレビなどの映像も含め)を見るのがこわく、避けてしまう
などの傾向があり、日常生活が大きく制限され、実は多くの方が悩んでいます。
それにもかかわらず、認知度の低さから克服方法がわからず困っている方、「やらない方がいいこと(長期化に繋がってしまうこと)」を、知らず知らずのうちにやってしまう方が多いのです。また、当事者以外の人も、知らないことで「他人に対して発症のきっかけを与えてしまう可能性」もあります。
これらの症状に悩む方のために、これまで1000人以上症状改善をサポートしてきた山口健太氏(一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事)が『「吐くのがこわい」がなくなる本』を発売。嘔吐恐怖症に寄り添うはじめての本である本書から、一部を紹介します。
嘔吐恐怖症のきっかけとは?
ここまで「嘔吐恐怖症によって当事者の方が、日常生活においてどのようなことに悩んでいるのか?」をお伝えしてきましたが(関連記事:【嘔吐恐怖症】知っていますか? 吐くのがこわい病気)、そもそも発症のきっかけはどのようなところにあるのでしょうか?
一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会が、当事者100人に向けて「嘔吐恐怖症のきっかけとして一番強いと思うもの」を調査したところ、次のような回答結果になりました。
・自分が嘔吐したことから(29人)
・自分が嘔吐しそうになったことから(強い吐き気を感じたが吐かなかった)(28人)
・他人が嘔吐したのを目撃してから(13人)体調不良やストレスがきっかけ(13人)
・自分が嘔吐したのを誰かに怒られたことから(5人)
・あまり覚えていない(4人)
・他人が嘔吐して怒られているのを見たことから(2人)
・その他(6人)
それぞれの理由における具体的な回答内容としては、
「自分が嘔吐したことから」
→体調不良から家で激しく嘔吐したことがあり、それから。
→1年前の食事会中に嘔吐してしまい、そのときの体験が忘れられず、それ以降も何度かパニック発作のようになってしまう。
「自分が嘔吐しそうになったことから」
→小学生のとき、食べようとすると吐きそうになったことから。
→小学校に入る前に、家族で外食した際に気持ち悪くなったことがきっかけだと思う。
「他人が嘔吐したのを目撃してから」
→13年前に吐いている人を見て、自分も吐くのではないかと思い始めてから。
→小学生の頃に友達が吐いてしまい、吐瀉物が自分にかかってしまったから。
「体調不良やストレスがきっかけ」
→1年前から。鬱の再発をきっかけに、食事を嘔吐するようになり、以来、吐いたらどうしようという不安に苛まれ、慢性的に吐き気を感じる。
→2年前くらいに自律神経失調症に近い症状や食中毒が重なってから。
「自分が嘔吐したのを誰かに怒られたことから」
→小学生くらいのときに、自分自身が吐くと親に怒られたからだと思う。
→小学生のときに教室で吐いてしまったのをみんなの前で怒られたから。
「他人が嘔吐して怒られているのを見たことから」
→学校で友達が次々と嘔吐し先生が狂ったように怒って、すごく嫌な顔をして対応していた。小学生ながら絶対吐いてはいけないと思うようになった。
→家族での外食で、妹が食べ過ぎて、お店を出たところで吐いてしまい、母がすごく怒った思い出がある。
「その他」
→友達が「私は嘔吐してしまった人を見ると笑っちゃうんだよね」と言っていたり、戻している人を駅で見かけたときに、誰も助けない状況を見てこわくなったりしてから。
→外食中に相手が大盛りの食事を注文した際、量の多さに圧倒されて気分が悪くなり吐き気でひと口も食べられず、次以降の外食でも「そうなるのではないか」と思い始めた。
ちなみに発症時期に関しては、
・0~5歳(小学生未満)(8人)
・6~12歳(小学生のとき)(38人)
・13~18歳(中高生のとき)(20人)
・19歳以降(27人)
・覚えていない(7人)
という回答結果になり「嘔吐や吐き気に関する強烈な体験」をしたことなどをきっかけに、多くの方が子どもの頃からずっと悩み続けていることもわかりました。
そして、ここまで見てきたように、「自分が吐いたこと」、「吐きそうになったこと」だけではなく「親に吐いたことを怒られてから……」、「先生に吐いたことを怒られてから……」などを発症したきっかけとしてあげる場合もあることから、周りの人が発症の大きなきっかけを与える可能性があるとも言えるでしょう。
さらにいえば「吐いている人を怒っているのを見た」という自分とは直接関係ない出来事でも、発症のきっかけになるのも知っておきたいところです。吐瀉物を適切に処理するのも大切ですが、吐いた子どもに対する心のケアも同じくらい大切なのかもしれません。
(本書は『「吐くのがこわい」がなくなる本』〈山口健太著、福井至、貝谷久宣監修〉を抜粋、編集して掲載しています)
★本書は以下に当てはまる方におすすめです。ぜひチェックしてみてくださいね。
・「吐くのがこわい」「気持ち悪くなるのがこわい」と日常で感じることが多い人
・人が吐く場面や吐瀉物などに尋常ではない恐怖感を抱く人
・嘔吐恐怖症のカミングアウトをしたいが、どうすべきか迷っている人
一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事、カウンセラー、講師
2017年5月に同協会を設立(アドバイザー:田島治杏林大学名誉教授、はるの・こころみクリニック院長)
自身が社会不安障害の一つの「会食恐怖症」に悩んだ経験を持ち、薬を使わず自力で克服する。その経験から16年12月より会食恐怖症の方への支援活動、カウンセリングをはじめる。その中で関連症状の「嘔吐恐怖症」の克服メソッドを研究。これまで1000人以上の相談に乗り改善に導いてきた。主催コミュニティ「おうと恐怖症克服ラボ」では、会員向けに克服のための情報を発信している。著書に『会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと』(内外出版社)、『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)などがある。
【監修】福井 至(ふくい・いたる)
東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科・東京家政大学大学院教授。和楽会認知行動療法センター所長、公認心理師・臨床心理士、博士(人間科学)
1982年、早稲田大学第一文学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程心理学専攻単位取得退学。札幌大学女子短期大学部助教授、北海道浅井学園大学人間福祉学部助教授、東京家政大学文学部助教授を経て、2008年より現職に至る。編著書に、『図説 認知行動療法ステップアップ・ガイド-治療と予防への応用』(金剛出版)、『図解による学習理論と認知行動療法』(培風館)などがある。
【監修】貝谷久宣(かいや・ひさのぶ)
京都府立医科大学客員教授。医療法人和楽会理事長、パニック障害研究センター所長。医学博士
1968年、名古屋市立大学医学部卒業後、ミュンヘンのマックス・プランク精神医学研究所に留学。岐阜大学医学部助教授、自衛隊中央病院神経科部長を経て、93年、なごやメンタルクリニック開院。97年、赤坂クリニック理事長となる。パニック障害や社交不安障害治療の第一人者として、幅広く活躍中。『健康ライブラリー イラスト版 非定型うつ病のことがよくわかる本』(講談社)、『よくわかるパニック障害・PTSDー突然の発作と強い不安から、自分の生活をとり戻す』(主婦の友社)、『気まぐれ「うつ」病ー誤解される非定型うつ病』(筑摩書房)など、著書・監修書多数。