突然ですが、「嘔吐恐怖症」を知っていますか?
聞き慣れない言葉かもしれませんが、嘔吐恐怖症とは「吐くのがこわい」病気です。
気持ち悪くなることや吐くのがこわいことから、
・人と食事をすることができない
・電車や飛行機などの乗り物に乗ることができない
・(おえっとなるのがこわいので)歯磨きができない、歯医者に行けない
・つわりがこわくて妊娠をためらう、結婚に前向きになれない
・日常生活で吐くことに関連すること(文字やテレビなどの映像も含め)を見るのがこわく、避けてしまう
などの傾向があり、日常生活が大きく制限され、実は多くの方が悩んでいます。
それにもかかわらず、認知度の低さから克服方法がわからず困っている方、「やらない方がいいこと(長期化に繋がってしまうこと)」を、知らず知らずのうちにやってしまう方が多いのです。また、当事者以外の人も、知らないことで「他人に対して発症のきっかけを与えてしまう可能性」もあります。
これらの症状に悩む方のために、これまで1000人以上症状改善をサポートしてきた山口健太氏(一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事)が『「吐くのがこわい」がなくなる本』を発売。嘔吐恐怖症に寄り添うはじめての本である本書から、一部を紹介します。

【嘔吐恐怖症】「理解されづらい」ことのカミングアウトのコツとは?Photo: Adobe Stock

どうカミングアウトするべき?

 今回は、相談会などでもよく話題になる「嘔吐恐怖症であることを、周りに伝えるかどうか(カミングアウト)」について触れていきたいと思います。

 まず、以下の当事者の体験談をお読みください。

『私は主人の他に仲のいい友人3人に、嘔吐恐怖症であることを打ち明けています。友人に伝えるきっかけになったのは、子どもがほしいかどうかの話題です。

 私が伝えた内容は、

・昔のトラウマから自分も他の人に対しても吐くことにすごく抵抗がありこわくて、実際そういう場面に出くわすと動悸がしたり震えたりしてしまうこと

・嘔吐恐怖症というものであること(自分の他にも実際苦しんでいる方がいることを伝えるために、女優の仲里依紗さんが公表した病名という話をしたりしました)

・つわりがこわいし、子どもがしんどいときに寄り添えるか不安があること

・でも子どもは授かりたいし、旦那に父親になってもらいたい気持ちが強いから何とか乗り越えたいこと

 でした。その流れで、

・現状は、一緒にいるときにしんどくなってあまり食べられなかったり、過呼吸になったり、うずくまったりすることがあるかもしれないこと

・そのときはそっとしてもらえるのが一番ありがたいこと

 も伝えていました。ただ不安や悩みを伝えるだけじゃなくて、乗り越えたいという気持ちや、どういう状態になってそのときどうしてほしいかを伝えました。

 また、打ち明けて自分が傷つかないために、「考えすぎ! いざ吐いてみたら大丈夫になるって! 自分の子どもが嘔吐したらこわいよりもまず心配するでしょ!」といった返答がくるかもしれないとあらかじめ考えていましたが、むしろ「つわりはしんどいかもしれないけど、そこで乗り越えられたらいいね」や「しんどそうなときはそうするね。もしそのとき何かできることがあれば言ってね!」、「もし仮に吐いても助けるから!」というような言葉が返ってきました。

 すごく安心して涙が出ました。

 打ち明けてみて思ったのは「話すことで自分が過ごしやすくなる」ということでした。

 伝えられて安心したのか、打ち明けた友人といるときはいつもよりたくさん食べられて、大きな吐き気もあまり起きずに過ごせています。』

カミングアウトの3つのポイント

 この方の体験談には、とても大切なことがたくさん書かれています。

 私は、打ち明けるときのポイントとして、3つ挙げています。

①「相手に理解してほしい」という期待の気持ちを持たない
「理解してほしい」のは当たり前なのですが、それについては考えてもコントロールできないことです。「理解してもらえたから成功」という考え方ではなく「伝えたこと自体が勇気ある素晴らしい行動だった」というように、行動自体を高く評価することが大切です。

②相手にとって受け取りやすい表現を使う
 いきなり「嘔吐恐怖症で……」と言っても、相手はなかなか受け取れないかもしれません。先で紹介した体験談のように、相手にとって受け取りやすい言葉を考えて伝えることが大切になります。

③よくなりたいと思っていることも一緒に伝える
 加えて「よくなりたいと思っていること」も一緒に伝えるようにしましょう。それがあるのとないのとでは、相手が受け取る印象に雲泥の差が生まれます。また、私は普段、給食を食べられない子に悩むお母さん向けのカウンセリングなどをすることもありますが、その際には担任の先生に対して「こうしてしまうと、うちの子は食べられないので、やらない方がいいと思います。一方で、こうすると食べられることがあります。指導でお困りの際は参考にしてください」というような、我が子のことを説明したお手紙を渡すのを勧めることがあります。

 それはなぜかというと「相手はどうしたらいいかわからないから」です。よって先の体験談にあったように「ただ不安や悩みを伝えるだけじゃなくて、乗り越えたいという気持ちや、どういう状態になってそのときどうしてほしいかを伝えました」という点は、かなり重要なポイントです。

 加えて「あなたと一緒に、○○を楽しみたいから、伝えたんだよ」という方向性のことを伝えるのもおすすめです。

(本書は『「吐くのがこわい」がなくなる本』〈山口健太著、福井至、貝谷久宣監修〉を抜粋、編集して掲載しています)

★本書は以下に当てはまる方におすすめです。ぜひチェックしてみてくださいね。

・「吐くのがこわい」「気持ち悪くなるのがこわい」と日常で感じることが多い人
・人が吐く場面や吐瀉物などに尋常ではない恐怖感を抱く人
・嘔吐恐怖症のカミングアウトをしたいが、どうすべきか迷っている人

【著者】山口健太(やまぐち・けんた)
一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事、カウンセラー、講師
2017年5月に同協会を設立(アドバイザー:田島治杏林大学名誉教授、はるの・こころみクリニック院長)
自身が社会不安障害の一つの「会食恐怖症」に悩んだ経験を持ち、薬を使わず自力で克服する。その経験から16年12月より会食恐怖症の方への支援活動、カウンセリングをはじめる。その中で関連症状の「嘔吐恐怖症」の克服メソッドを研究。これまで1000人以上の相談に乗り改善に導いてきた。主催コミュニティ「おうと恐怖症克服ラボ」では、会員向けに克服のための情報を発信している。著書に『会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと』(内外出版社)、『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)などがある。
【監修】福井 至(ふくい・いたる)
東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科・東京家政大学大学院教授。和楽会認知行動療法センター所長、公認心理師・臨床心理士、博士(人間科学)
1982年、早稲田大学第一文学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程心理学専攻単位取得退学。札幌大学女子短期大学部助教授、北海道浅井学園大学人間福祉学部助教授、東京家政大学文学部助教授を経て、2008年より現職に至る。編著書に、『図説 認知行動療法ステップアップ・ガイド-治療と予防への応用』(金剛出版)、『図解による学習理論と認知行動療法』(培風館)などがある。
【監修】貝谷久宣(かいや・ひさのぶ)
京都府立医科大学客員教授。医療法人和楽会理事長、パニック障害研究センター所長。医学博士
1968年、名古屋市立大学医学部卒業後、ミュンヘンのマックス・プランク精神医学研究所に留学。岐阜大学医学部助教授、自衛隊中央病院神経科部長を経て、93年、なごやメンタルクリニック開院。97年、赤坂クリニック理事長となる。パニック障害や社交不安障害治療の第一人者として、幅広く活躍中。『健康ライブラリー イラスト版 非定型うつ病のことがよくわかる本』(講談社)、『よくわかるパニック障害・PTSDー突然の発作と強い不安から、自分の生活をとり戻す』(主婦の友社)、『気まぐれ「うつ」病ー誤解される非定型うつ病』(筑摩書房)など、著書・監修書多数。