過剰なダイエットは
リスクを高める恐れも

 さまざまなリスクと隣合わせの「サルコペニア肥満」。サルコペニア肥満を予防するには、なるべく若い頃から筋肉を増やすのがポイント、と田邉氏はアドバイスする。

「90歳でも筋トレの効果は得られるので、トレーニングをすれば筋肉の維持に役立ちます。ただ、加齢とともに筋肉を“増やす”のは難しくなるので、40~50代のうちから筋肉をつけると筋肉の減少を遅らせることができます」

“筋肉を増やすトレーニング”と聞くと、ジムに通ったり、毎日何キロもジョギングしたりと、ハードな内容をイメージしがちだが、ごく軽いトレーニングで問題ないという。

「この場合の筋トレは、あくまでサルコペニア肥満対策。過酷なトレーニングを取り入れて挫折してしまうと意味がないので、無理のない範囲で行ってください。その際、スクワットや腹筋、プランクなどの自重トレーニングを2日に1回のペースで実施すれば、長い時間をかけて筋肉の量が増えていきます」

 リモートワークで通勤時間がなくなった人は、1日30分ほどウオーキングなどの有酸素運動を行うと脂肪の燃焼につながる。無理をして長距離を歩くのではなく、コロナ禍以前の運動量に戻すのが続けるコツだという。

「筋肉を作るには、食事も重要な要素です。3食すべてに野菜とタンパク質を取り入れるように意識しましょう。たとえば、牛乳200~300mLに10~15gのタンパク質が含まれているので、気軽に取ることができます。また、あまり知られていませんが、かまぼこやカニカマなどの白身魚から作られている“練り物”は、筋肉づくりに役立つアミノ酸スコアが高い食品です。練り物や刺し身は低脂質で良質なタンパク質が取れるので、晩酌のお供にもおすすめですね」

 なかには、肥満を解消するために“食べずに体重を減らす”という人もいるが、食事を極端に制限するのはNG。

「筋トレをせずに食事制限のみで減量をすると、体重と一緒に筋肉も落ちてしまいます。つまり、過剰なダイエットはサルコペニアの発症を早めてしまうのです。ダイエットをするなら、体重ではなく筋肉量を上げて脂肪率を下げるように心がけてください。サルコペニア肥満の予防は、食事と運動のバランスを意識しながら行うのがベストです」

 サルコペニア肥満の主な原因は加齢と不摂生。年を重ねるのは避けられないが、中高年のうちから不摂生を改善して筋肉をつければ、寝たきりのリスクは回避できるかもしれない。

<識者プロフィール>

田邉解(たなべ・かい)氏:筑波大学体育系/スマートウエルネスシティ政策開発研究センター准教授。体育科学博士。専門は運動生理学で、生活習慣病やサルコペニア肥満などを研究。成蹊大学工学部工業化学科卒業後、筑波大学大学院体育科学研究科博士課程修了。その後、筑波大学体育系研究員や、駒沢女子大学人間健康学部健康栄養学科准教授などを経て、現在。