これまでの日本はアップルにとって
重要な市場だった

 グローバル企業というものは価格設定において、二つのどちらかの態度をとります。本社から見てその国が重要な市場ならば、現地法人のアドバイスに従ってその国の事情に合わせた特別な価格設定を考えますし、それほど重要な市場でなければ本国の価格を前提にした価格を押し付けます。

 実はiPhone14の発売時にはそれでも「かなり価格が高くなった」と日本でもニュースになりました。iPhone13の一番安い128GBモデルは発売時は9万8800円と10万円の壁を意識した価格設定でした。それがiPhone14の128GBモデルで11万9800円と10万円を超えてきたことが話題になったのです。しかしその上げ幅は計算してみると21%です。

 これはつまり、アップルが日本市場を重要視している証拠です。

 2割の値上げというのは、消費者がなんとか付いてこられる限界の値上げ幅のようなもので、それを超えた値上げをすると大きくユーザーが離反してシェアが変動する可能性がある。少なくとも本国は、重要市場についてはそう考えるのです。

 そこで私が気になったのが、冒頭からお話ししているApp Storeの値上げ幅が、iPhoneと比較してかなり大幅にしてきたことなのです。21%の値上げではなく32%の値上げをあえて選んできた。ここが日本人の経済評論家として、どうしても気になってしまった点なのです。

 なぜiPhoneに関しては特別に安くする一方で、アプリに関しては円安分をまるまる値上げしてきたのか? 理由は二つ考えられます。

アップルがApp Storeを円安分
値上げした二つの理由

 一つは、スマホのビジネスモデルが本体を安く売ってアプリでもうけるからです。これはプリンターの本体が安くてインクが高いことや、ゲーム機の本体が原価割れでもゲームソフトでもうける仕組みになっているのと似ています。

 iPhoneの本体を買った人はiPhoneのアプリを使うしかないわけで、そこを値上げしても消費者はついてくるという判断です。

 もう一つは、結局のところ為替に合わせて値上げをしないと利益は確保できないという事情です。

 為替レート通りの32%値上げではなく21%の値上げに収めると、実質的に8%の値下げになります。これをカバーするには、企業努力で売り上げを8%伸ばさなければいけないわけです。

 そして、「日本市場では8%も需要が増える余地はなさそうだ」と本国の幹部が考えを変えると、そこから先は「値上げによる搾り取り戦略」が始まります。

 日本経済が成長しない、オブラートに包まずに言えば、いよいよ斜陽を迎えるとグローバル企業が考えはじめたとき、2割ではなく3割の値上げが始まります。