「オンライン脳」は、ボーッとしているのと同じ状態

 5人の緊急実験で分かったことを、あらためてまとめておきます。まず、対面して互いに相手の顔を見ながら会話をする対面コミュニケーションでは、5人の同期現象が観察できました。しかし、オンラインコミュニケーションでは、脳活動の同期現象が一切観察できませんでした。これは、いったい何を意味しているのか?

 同期が見られた対面の会話では、5人の脳が何らかの活動をしていました。しかし、同期がまったく見られなかったオンラインコミュニケーションの会話では、彼らが黙ってボーッとしているときの脳と同じ状態だ、ということができます。

 要するに、コロナ禍に見舞われて急増し、人びとが盛んに利用しているオンラインコミュニケーションは、脳にとってはまともなコミュニケーションになっておらず、その脳の状態はとくに何もしていない場合と同じである、ということが実験から科学的に、はっきり確かめられたのです。

 緊急実験に至るまでの私たちの実験から、人と人のコミュニケーションでは、「脳の活動が同期する状態」と「共感が生まれて協調や協力ができている状態」は同じことを意味する、との結論が得られていました。ですから、オンラインコミュニケーションでの会話では、じつは互いに共感する状態にはなっていなかったのです。それは、「相手の心と自分の心は、うまくつながっていない」ということを意味します。