写真:オンライン診療写真はイメージです Photo:PIXTA

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、「オンライン診療」の利用が急増している。米国ではコロナ禍前と比較して利用者が63倍に跳ね上がった。しかし、それでも“普及”とは言えない理由がある。また、この数字だけを見て、日本でも市場が今後どんどん拡大すると思い描く者がいれば、それは幻想である。(国際医療経済学者・グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン〈GHC〉会長 アキよしかわ、GHC代表取締役社長 渡辺さち子)

2030年に62兆円市場
コロナ前の9倍に成長

「オンライン診療」は医師がインターネットなどを介して患者を診察する行為で、「遠隔医療(診療)」とも呼ばれる。新型コロナウイルスの感染拡大により、日本を含め世界で利用が急増した。

 独調査会社スタティスタの調査によると、遠隔医療の世界市場規模は23年に26兆円とコロナ禍前の2019年から約4倍、30年には62兆円と約9倍まで急成長する見通しだ(詳細はスタティスタのホームページ参照)。コロナ禍に伴う行動制限や受療行動の変化などを起爆剤に、今後、さらなる技術革新などが後押しするという。

 日本はこれまで、オンライン診療の普及に慎重な姿勢だった。利便性の向上や医療の効率化などが図れる一方、対面での触診などができないことによる誤診の恐れがあるためだ。それでも18年から再診に限ってオンライン診療が解禁され、20年4月にはコロナ禍の特例措置として初診での利用も認められた。その後、22年1月からは初診の利用が正式に制度化された。

 ただ、具体的な利用状況を見ると、世界の潮流とは大きくかけ離れている。

日本の年間診療件数は789万件
米国は5270万件に急成長

 特例措置が認められた直後の20年4月こそオンライン診療を利用した診療件数は月に100万件を超えたが、その後は半減して55万件前後で横ばい。伸び率は約3倍(比較可能な19年と20年の10~3月データ)で、20年度の診療件数は789万件だった(詳細は厚労省ホームページの資料参照)。

 一方、米国保健福祉省長官のシンクタンク「ASPE(office of the Assistant Secretary for Planning and Evaluation」の調査によると、米国における20年のオンライン診療の件数は、コロナ禍前の19年と比較して63倍の5270万件に増加。都市部に限ると、131倍という急成長ぶりだ。

 なぜ、米国は日本と桁違いの爆発的な成長を遂げているのか。その事情を知ると、米国で“普及”したとか、日本でこれから市場が急拡大するとか、そうした言葉を安易に口にすることはできなくなるだろう。