「台風に興奮するお父さん」
何が彼をかき立てるのか

 興奮度★4のお父さんはこちら。今は都内に住むそのお父さんだが、実家が九州にあって、実家住まいの頃はよく台風の被害に遭っていたらしい。それを念頭に読み進めていただきたい。
 
「ガムテープや養生テープを持って家の中を徘徊(はいかい)し、窓に直接貼ったり(窓ガラスの破損および破片の飛散防止)、窓の隙間に目張りをしてまわる。目張りしなくても雨は侵入してこなさそうなのだが、それをやらないと気がすまないらしい。台風がそれたことがわかっても目張りだけはやる。
 
“強い台風”が来た時は、木の板で窓の補強を行う。最初釘で打ち付けようとしていたが、母の大クレームにあって接着剤に落ち着いた。木の板と、接着してあった部分を接着剤剥がしでキレイにする時、父は『なかなか取れないな』を連発して、がんばっている自分を家族にアピールしている。母は完全に無視しているが、私はたまに手伝ってあげていた」(30代女性)
 
 台風の被害が出る地域でお父さんは育ったため、住む地域が変わろうと、その習慣は続けられている。「興奮」ではなくただの「備え」であるとの見方もできるが、このケースのポイントは「台風がそれてもやる」であり、そこが「お父さんは台風で興奮している」とみられるゆえんである。
 
 もうひとつ、興奮度★4のお父さんは、興奮しているオーラが全面に出ている。
 
「台風が来ると、外の様子が見たくて外出したがる。『ちょっと、外は今どうなっているのかな』といったことをつぶやき、『見てこようかな』とソワソワする。母が厳しく止めているので、父はテレビで台風情報を見て『うわ、ひどいな』と嘆息しておとなしくしているが、ややもすると外出する口実を探して、『牛乳まだあったっけ?』『アイス買ってきてあげようか?』と家族に尋ねて回る。
 
 母が父をずっと監視しているので、父は結局外出せず、台風が通り過ぎると深夜明け方時間帯に関係なく、いの一番に外に出て、『どこどこの木が折れていた』『川の水かさがすごい増していた』と興奮気味に報告する。たまに、ついでに近所の掃除をしてくるから、そこは偉いと思う」(30代男性)

 増水した川を見に行った人が事故に遭うニュースがたまに聞かれるが、そのようなことにならないために、この家の母は父を監視しているのだろう。
 
 なお、「興奮度★5」を設定しなかったのには理由がある。世の中は広いのでもっとすごいお父さんがいるはずで、その人たちの存在を推し量って「興奮度★5」を空席とした。
 
 筆者も、20歳の頃、台風が来ると居ても立ってもいられず、自己判断で「安全」と思える規模の台風時のみ、深夜車で外出してうろついたり、誰もいないお台場をずぶ濡れになりながら走り回るのを楽しみにしていた。今は常識を備えた大人なのでそんな危険な迷惑行為をやろうと決して思わないが、お父さんたちの気持ちには共感できるものがある。
 
 妻は「台風にはまったく興奮しない」と言い切っており、他の女性からも同様の証言を複数得ているので、ジェンダー平等のご時世ではあるが、台風に関してはその受け止め方に男女でハッキリとした性差があるように個人的には感じている。
 
 また、専業主婦が主流だった過去は、「力仕事は男性」「父こそ一家の大黒柱」といった価値観が強く、その観点から「台風の対策を講じるのがお父さん」という図式が生まれたのではないか。住民が力を合わせて台風の対策に当たらなければならない地域では、消防団が活躍する機会も多かろうから、ここでも「台風対策=男性」の傾向が強められる。
 
 そうした社会的な仕組みと、「男性の方が台風に興奮しやすい」という性差が相まって、「台風に興奮するお父さん」が生まれるのではないか…というのが仮説である。
 
 ここまで来るとやや自己弁護の感があるが、台風に興奮するお父さんにはなんの悪気もない。

 おそらく、彼らにあるのは「家を、家族を守る」という使命感と、あとほんのちょっとの「台風への興味」である。どうか、台風に興奮するお父さんをないがしろにし過ぎず、優しく、しかし暴走が行き過ぎるようならぜひ制止する構えを、ご家族には願いたい次第である。