スバンテ・ペーボ教授(左)と筆者の大隅典子教授スバンテ・ペーボ教授(左)と筆者の大隅典子教授

2022年のノーベル生理学・医学賞が10月3日に発表され、沖縄科学技術大学院大学教授で、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所所長のスバンテ・ペーボ博士が受賞した。ペーボ博士は9月に東北大学でセミナーを実施するなど日本との縁が深い。ペーボ博士の友人で、セミナーの招聘を実現させた、東北大学副学長・東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授に、偉業を緊急解説してもらった。

文学部から医学部に転身したペーボ博士
ミイラの解析から古代人ゲノムの解析に発展

 10月に始まるノーベル賞受賞者発表の一番手は、必ず生理学・医学賞だ。ここ数年は、筆者は研究室でPCの画面を大きなモニタに映して、パブリックビューイングを行っている。

 毎年のことながら、選考委員長のトーマス・パールマン博士の電話を1時間前に受けたのは誰なのか、固唾を呑んでライブ配信を見守っていたところ、最初のスウェーデン語の受賞者発表で、馴染みのある名前が呼ばれた。「スバンテ!!!」という私の声に、学生は驚いたことだろう。

 2022年のノーベル生理学・医学賞の受賞者、沖縄科学技術大学院大学教授でドイツのマックスプランク進化人類学研究所の所長であるスバンテ・ペーボ博士は、古生物遺伝学の開拓者だ。

 生物学的な父親であるスネ・ベリストローム博士は、プロスタグランジンや関係する脂質分子の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞した。ペーボ博士は父親のDNAを受け継ぎながら、当初はスウェーデンのウプサラ大学文学部でエジプト学などを学んでいた。

 しかし、そこからさらにペーボ博士は医学部へと進学。さらにはミイラのDNAを解析できるのではと考えて実行し、今回のノーベル賞受賞の研究テーマとなったネアンデルタール人などの古代人ゲノムの解析につながった。