『見た目劣化問題』について、唯一自信を持ってお勧めできる解決策とは!?
人気絶頂の中、日本でのすべての芸能活動を休止し、渡米してから約30年。その生き方と圧倒的な個性で注目を集めてきた野沢直子さんが、還暦をまえにして「60歳からの生き方」について語ったエッセイ集『老いてきたけど、まぁ~いっか。』が発売とともに話題になっています。「人生の最終章を思いきり楽しむための、野沢直子流『老いとの向き合い方』」について、本連載では紹介していきます。
腕も二の腕の下肉は下がり、ひらひらと振り袖状で風に揺れる
昔ほどたくさんの量は食べられなくなっているのに、変なところに余計な肉がついてきて取れない。
これは女性も男性もだと思うが、まずはお腹周りの肉である。お腹が前に出てくるのは男性が多いと思うが、女性は下腹がついてくるパターンが多いのではないだろうか。私も例にもれず下腹派だし、お尻の、本来桃のように丸く上がっていてほしい肉は削げてきていて、削げてきたというか、もしかしたらその肉が足の横に移動してきたのかもしれないようで、お尻が横に広がって四角になった。
腕も二の腕の下肉は下がり、ひらひらと振り袖状で風に揺れる。たとえ体重が変わらなくても、今までとどこかバランスが違っていて、シルエットが違う。洋梨とかハンプティダンプティみたいなシルエットで、なんだか美しくないフォルムなのである。
この『見た目劣化問題』に関してはとにかくキリがないほど問題が山積みで、書いていても、もう気が遠くなる。私自身これらの問題についてどうしたらいいのかわからないので、申し訳ないが具体的な解決策というものはない。ごめんなさい。ただ一つ、これはまったく根本的な解決策にはならないが、唯一の私のこの老い対策、老いをごまかす作戦だけは書いておく。
とりあえず私は肌や体型の老化のことに関してはこれといった具体的な解決策もわからなくて戸惑ってはいるが、別の見た目のこと、服装のことに関してだけは『年相応な服装を心がけない』という持論を強く持って実行しているのである。年相応な服装をする、ではなく、年相応にしない持論だ。
私が唯一自信を持って解決策としてお勧めできるのは、ここの部分だけなので心して読んでいただきたい。
サンフランシスコのおばあちゃんから学んだこと
渡米してからもう、三十年という月日が流れてしまった。人生の半分以上はもうアメリカにいることになる。
だが、アメリカに長く住んでいるからといって、私は決して百パーセントアメリカ万歳派なわけではなく、むやみやたらに『アメリカではこうだ』と日本に住んでいる日本人にそのやり方を勧めたい方では決してない。
日本を離れたからこそ日本の良さ、日本人の良さを認識したと思っているので、そんなことはしない。
だが、私が住んでいたニューヨークや現在住んでいるサンフランシスコで見てきたおばあちゃんたちは年を取れば取るほど派手な色のものを着る傾向にあるようで、私はそこはとても好きで真似したいなあと思い、そこは実行しているのである。
『年相応』というエリアにシフトチェンジしていかなければならないというのは、死ぬほどつまらない
それはただ、若い子と同じ格好をしておけばいい、ということではない。それはしない。流行っているものは取り入れたいとは思うが、だからといってただ単に若い子と全身同じ格好をするというのには抵抗がある。
何故だろう、もう老人の域に達してカサカサ萎びているくらいの人が若作りしようとしているのはなんだか微笑ましくも見えるのに、中年期の人がやると単にギラギラ感が前面に押し出されてどうも見苦しい感じになりがちだ。中年期の若作りは、すごく脂っこく見えるのだ。
実際にまだ顔も脂ぎっていてテカテカしているせいなのだろうか。なんだか見ていてペーパータオルを押し付けて、脂抜きをしたくなる脂っこさがある。単なる若作りをするなら、もう少し肌がカサカサしてからにしたい。私ももうだいぶカサカサしてきているが、どうも萎び加減がいま一つ足りない。あと少なくとも、五年は待つことにしよう。
そう、単なる若作りは避けたい。でも、単に年を取ってきたからという理由だったり、いつまでもこんな格好をしていると周囲の人に色々言われるからといった理由で『年相応』というエリアにシフトチェンジしていかなければならないというのは死ぬほどつまらなくて、その思考で余計に年取って見えるだろうと思っているので、それは絶対にしない覚悟でいる。
何歳になっても自分が好きだと思える洋服を着る
頭のてっぺんにリボンをつけるつもりはもうないが、たとえ顔がフナになってきても、下腹が出てきても派手な色の洋服の方が好きなんだから派手な色の洋服を躊躇なく着よう、いつまでも自分で好きだと思える服を着ようと心がけている。何歳になっても自分が好きだと思える洋服を着る、ここがポイントである。
もちろん、自分の好きな服がたまたま若い子たちが着ている服とかぶっていた、という状況なのであれば堂々と胸を張って若い子と同じ服を着ていただきたい。単に『若い子が着てるから着ている』というのと、『この洋服が着たいから着ている』というのとでは心意気が全然違う。
身につけるものや持ち物、アクセサリー等に関しても『年を取ってきたら、上質のものを身につける』ことが決して正解だとは思っていない。
そういった物がお好きな方はそうすればいいと思うが、そんな根拠のないことに振り回されるより、自分が本当に好きだと思えるアクセサリーを身につけていたりバッグを持っていた方がよっぽど幸せである。
『老いてきたけど、まぁ~いっか。』では、「人生の最終章を、思いきり楽しむための、野沢直子流『老いとの向き合い方』」を紹介しています。。ぜひチェックしてみてください。
(本原稿は、野沢直子著『老いてきたけど、まぁ~いっか。』から一部抜粋・修正して構成したものです)
1963年東京都生まれ。高校時代にテレビデビュー。叔父、野沢那智の仲介で吉本興業に入社。91年、芸能活動休止を宣言し、単身渡米した。米国で、バンド活動、ショートフィルム制作を行う。2000年以降、米国のアンダーグラウンドなフィルムフェスティバルに参加。ニューヨークアンダーグラウンドフィルムフェスティバル他多くのフェスティバルで上映を果たす。バラエティ番組出演、米国と日本でのバンド活動を続けている。現在米国在住で、年に1~2度日本に帰国してテレビや劇場で活躍している。著書に、『半月の夜』(KADOKAWA)、『アップリケ』(ヨシモトブックス)、『笑うお葬式』(文藝春秋)がある。
写真/榊智朗