知る人ぞ知る問題解決メソッド、「問題解決の7ステップ」がついに書籍化する――。マッキンゼーで最も読まれた伝説の社内文書「完全無欠の問題解決への7つの簡単なステップ」の考案者であるチャールズ・コン氏みずから解説する話題書『完全無欠の問題解決』(チャールズ・コン、ロバート・マクリーン著、吉良直人訳)が注目を集めている。マッキンゼー名誉会長のドミニク・バートンは「誰もが知るべき、誰でも実践できる正しい問題解決ガイドがようやく完成した」と絶賛、グーグル元CEOのエリック・シュミットも「大小さまざまな問題を解決するための再現可能なアプローチ」と激賞している。本書では、「自宅の屋根にソーラーパネルを設置すべきか」「老後のためにどれだけ貯金すればいいか」といった個人の問題や「販売価格を上げるべきか」「ITの巨人に訴訟を挑んでいいか」といったビジネス上の問題から、「HIV感染者を減らすには」「肥満の流行をどう解決するか」といった極めて複雑なものまで、あらゆる問題に応用可能なアプローチを紹介している。本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。
自宅の屋根にソーラーパネルを設置すべきか?
数年前、ロブは、オーストラリアの田舎町にある自宅にソーラーパネルを設置する時期が来たかもしれないと考えた。ロブと彼の妻のポーラは、以前からCO2排出量を相殺するために何かしたいと思っていたが、電力会社からの補助金が減少(現在は廃止)していること、ソーラーパネルの設置コストが下がっていること、固定価格買取制度(自宅で発電して使いきれなかった電気を電力会社が買い取ってくれる制度)の将来の買取価格水準がどうなるかわからないことから、決断に悩んでいた。今がその時なのか?
彼は、マッキンゼーで学んだアプローチを使おうと決め、「私たちは今、ソーラーパネルを設置すべきだ」という仮説を立てることから始めた。彼は、このように仮説を立てることで結論に達したわけでもないし、事実を無視して仮説を裏付けようとしたわけでもない。仮説をもとに、それを否定するか支持するかの議論を展開しているのである。
ロブは、次の基準がすべてクリアできれば、仮説は支持されると感じていた。
ソーラーパネルを設置するための3つの基準
基準1 投資のリターンが魅力的で、10年以内で回収可能な場合
基準2 後日大幅に安くなることはないので、待たずに今投資すべきだと判断できるほど、ソーラーパネルのコストの下落が鈍化している場合。ロブは、ソーラーパネルのコストが今後も下がり続け、3年後に大幅に安くなるのであれば、待つことを検討すべきだと感じていた
基準3 ロブのCO2排出量を10%以上削減できる場合(ただし彼にとって不可欠な飛行機での移動は除く。単独で相殺することができるからだ)
ロブは、問題の範囲を明確な境界線で限定することで、問題解決がより正確かつ迅速になると知っている。
この種の問題は、固定価格買取制度や削減貢献量といった聞き慣れない用語が入り乱れているため、最初は非常に複雑に聞こえる。ロブはロジックツリーを使うことで、問題の構造を一望し、分析結果を管理しやすい塊に分解することができた。彼は、問題解決に必要な理由や裏付けになる事実を整理することから始めた。
こういうふうに考えることもできる。つまり、ロブが問いに肯定的に答えるためには、何を確信しなければならないのか。ソーラーパネルの設置に踏み切る主な理由は何だろうか。図表1は、ロブのロジックツリーの最初の切り口である。
彼は最初に投資の経済性について取り組んだ。経済的にうまくいかないのであれば、他の2つの問いに答える必要がないからである。回収の計算は非常に簡単で、ソーラーパネルとインバーター[訳注:ソーラーパネルからの直流電流を家庭で使える交流電源に変換する装置]のコストを、1年間で節約した電気料金で割ればよい。
この分析の分母には、自家発電による電力を使うことで回避される電気料金の純節約額と、必要以上に発電された電力を、固定価格買取制度を介して電力会社に供給することの収入の両方が含まれる。この分析のほとんどは、システムの大きさ、屋根の向き、太陽光発電の予想量、発電効率がわかれば、ソーラーパネル設置業者が提供するオンライン計算機を使ってできる。
ロブは、コストは上昇するがピーク時電力を補足するバッテリー蓄電装置をオプションから除外して、計算を簡単にした。こうして、年間のコスト節約額が1500ドル、総投資額は6000ドル超、回収期間はおよそ4年間と、この投資は魅力的であることがわかったのである。
次の問いは、今すぐに投資すべきか、もしくはソーラーパネルのコスト低下を見込んで投資を延期すべきかである。ロブは、太陽光発電1ワットあたりのコストが、2012年から2016年の間に約30%、太陽光発電の初期と比べると約90%も低下していることを知っていた。だが、この低下傾向が今後も続くかどうかはわからなかった。
インターネットで簡単に調べてみると、機器のコスト低下傾向はいまだに不透明だが、少なくとも向こう3年間は1ワットあたりのコストが30%以上下がることはなさそうだとわかった。太陽光発電システムの販売を促進するために設定された固定価格買取制度についても、将来的に不透明である。これは、電力顧客への小売価格の上昇と照らし合わせて検討しなくてはならない。
年間のコスト節約額が1500ドルなので、投資を待つことで失われるコストは3年で4500ドルになる。そのため、投資を待つだけの価値があると言うためには、太陽光発電システムの初期費用が75%削減されなければならない。単純な投資回収ではなく、お金の時間的価値を考慮した正味現在価値分析をしてもよかったのだが、この場合は単純な方法でも問題はない。彼は、4年間で回収できる、つまり年率25%の収益率が得られることに満足した。今やる価値はある。
最後にロブは、CO2排出量をどの程度削減できるかを試算した。この試算は2つの要素に左右される。1つはどの資源に代替するか(この場合は石炭あるいはガス)であり、もう1つは電力使用量に対する発電量(kWh)であり、これは最初のステップでわかっている。
彼は、平均的なオーストラリア市民のCO2排出量を調べることで分析を簡略化し、この小さな太陽光発電プロジェクトのおかげで、彼の排出量を20%以上削減できることがわかった。この場合、投資の回収は非常に堅実であるため、ツリーのこの枝を剪定して時間を節約することもできたが、彼とポーラにとって、この投資には複数の目的があった。
この種の分析をするときには常に、どんな問題が起こり得るのか、思考の各部分にどのようなリスクがあるのかを問う価値がある。このケースの場合、電力会社が太陽光発電システムの導入補助金を削減する可能性がある。しかし、このリスクは迅速に行動することで軽減できる。
また、電力会社は、ロブが生産した余剰電力を購入する固定価格買取制度の買取価格を引き下げる可能性もある。実際、電力会社は後でそのようにしている。しかし、投資回収期間が4年間なので、リスクにさらされる期間はかなり限定的である。
ロブの分析結果は図表2に示したとおりで、ロジックツリーはさらに複雑になった。
インターネットで少し調べただけで、ロブは比較的複雑な問題を解決できた。彼は今すぐソーラーパネルを設置すべきだ。投資の回収期間は魅力的であり、設置を先送りにすることによるコストの低下は、現在獲得できる節約額を相殺するのには十分ではなさそうだ。おまけにロブとポーラは、CO2排出量を約30%削減することができる。
この分析が良好な結果をもたらした主な要因は、正しい問いを立てることと、問題を単純な塊に分解することだった。
(本原稿は、チャールズ・コン、ロバート・マクリーン著『完全無欠の問題解決』を編集・抜粋したものです。この伝説の問題解決メソッドについて知りたい方はこちらの記事をご覧ください)