地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)から「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。

意外に知らない…人類が腰痛に悩まされる根本原因Photo: Adobe Stock

多くのほ乳類は四足歩行が当たり前

 私たちにとって、立ったり歩いたりはあまりにも簡単で自然なので、あたりまえと思いがちだ。

 多くのほ乳類は、短い時間なら、直立して歩くことができる。

 しかし、それには努力が必要で、すぐに体勢が崩れて四足に戻ってしまうのが、ほ乳類の典型的な状態だ。

 ヒト族は違う。彼らにとっては直立歩行があたりまえで、手足を使って歩くという四足での移動は不自然で難しいことなのだ。

二足歩行は相当に大変

 七〇〇万年前のアフリカの川岸や森の軒先に生息していた類人猿の一族が、二足歩行を採り入れたことは、生命の歴史全体を通じても、際立った、思いもよらない、不可解な出来事の一つだった。

 頭のてっぺんからつま先まで、身体全体をすっかり構築しなおす必要があった。

 頭部では、脊髄が頭蓋骨に入る穴が、(四足歩行動物のような)後ろ側から基底部へ移った。

 この特徴は、ほかにこれといった特徴があまりないサヘラントロプスが、ヒト族であることを示すものだった。

背骨は極端に圧縮されている

 なぜなら、後肢で歩くとき、顔は空のほうに上向きではなく、前方に向いていて、また、頭蓋骨が脊髄の端から前に飛び出すのではなく、脊髄の上で平衡を保っていたことを意味するからだ。

 二足歩行による体全体への影響も、同じように大きかった。

 五億年前に進化したときの背骨は、水平にひっぱられる構造だった。ヒト族では、九〇度回転して垂直に圧縮されるかたちになった。

 これほど極端な背骨の設計条件に対する変更は、最初に背骨が進化して以来なかった。

 そして、今日の人類にとって、腰痛が大きな悩みの種であることを考えれば、この変更に、人類は充分に適応できていないといわざるをえない。

恐竜との違い

 恐竜は二足歩行で大成功を収めたが、やり方が違った。

 恐竜は、長くて硬い尻尾で釣り合いをとりながら、背骨を水平に保っていたのだ。

 だが、ヒト族は、類人猿と同じく尻尾がないため、難しい方法で二足歩行を獲得した。

(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)