ビジネスの世界で注目を集める「心理的安全性」という言葉。その重要性は分かっているけれど、具体的にどのようなコミュニケーションで心理的安全性の高い環境を整えればいいのか分からないリーダーも多いのではないでしょうか。そんな問題を解決する教科書が『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』です。本書では実際のオフィスで使われた声かけ1000万件超のうち、特に効果の高かった100件を紹介。NG表現とOK表現の言い換え例を見せながら、心理的安全性を高める声かけを理解していきます。本連載では、『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』で掲載した声かけをピックアップして掲載。まずは具体的な事例紹介に入る前に、「そもそも心理的安全性とは何か」について解説した文章を、『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』から抜粋して紹介します。
仕事で失敗したメンバーを自分がサポートしたとき、みなさんがリーダーなら、何と声をかけますか。お客さまが怒り出して案件が流れてしまいそうになったとしたら……。
「もう迷惑をかけないでね」
こう、本心では思ってしまうかもしれません。メンバーの失敗で迷惑を被ったのですから、こう思ってしまうのも仕方のないことでしょう。メンバーの自立を促すためにも、迷惑だとハッキリ伝える方がいいと考える人もいるはずです。
ちょっとした苦言が恐怖心を与えることも
しかし、失敗したメンバーは「迷惑をかけた」といういたたまれない気持ちで一杯のはずです。それなのに輪をかけて「もう迷惑をかけないでね」と言われてしまえば、罪悪感を強めるだけでしょう。さらには、リーダーに対して恐怖心を抱くようになるかもしれません。
「忙しいんだから、時間を取らせないでくれよ」という気持ちから、ついポロッと苦言を呈することもあるかと思います。
リーダーの指摘が苦言だけで終わってしまえば、それはメンバーの「学習する機会」を奪ってしまいます。その結果、自立や挑戦も遠ざけてしまうでしょう。
『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』では、これから多くのリーダーとメンバーのやり取りを取り上げていきます。
みなさんの中には、「メンバーはリーダーが厳しく指導してこそ成長するもの」と考えている人もいるかもしれません。
ところが、現代はVUCAの時代。VUCAとは「Volatility」(変動性)「Uncertainty」(不確実性)「Complexity」(複雑性)「Ambiguity」(曖昧性)という4つの単語の頭文字を取った言葉で、将来の予測が困難な状態を指します。世の中は先が見えない不安定なものとなりました。リーダーがすべての答えを知っていて、その通りに従えば、成功が約束されていた時代とは異なります。
不安定な時代の中で組織が成長するには、リーダー一人だけで思考し、答えを導き出すのではなく、多くの頭脳をリソースとして活用する必要があります。また多くの頭脳をリソースとして活用する方が、組織のパフォーマンスも確実に上がるでしょう。
失敗は悪ではなく、学習の糧になる
メンバーが失敗をして迷惑を被った。そんな場合に大切なのは、まず失敗についての良し悪しのジャッジを脇に置くことです。「失敗=迷惑」「失敗=悪」「失敗=恥ずかしいこと」などとは判断しないことです。
では、「次は失敗しないようにね」とクギを刺す言葉はどうでしょうか。ビジネスの現場ではよくありそうな声かけですが、これもやはり「失敗=悪」と捉えられかねません。
「失敗」は組織にとっての「学習の糧」。失敗から学びましょう。メンバーに一人で原因を究明させるのではなく、一緒に原因を探ってもいいでしょう。課題を特定し、学んだ後は、こういった声かけをしてください。
「次に同じ問題にぶつかったら、もう一人で解決できるよ」
リーダーからの期待と信頼を感じ取ったメンバーは、失敗から学び、自立的に失敗の繰り返しを防ごうと努めるはずです。リーダーがこういった声かけをしていけば、最終的には「自律的に行動しよう」「失敗を恐れず挑戦してみよう」というメンバーのマインドが育ちます。
メンバーの自立や挑戦を促すのは、「恐怖」ではなく「信頼」と「期待」です。
あなたの会議では、「シーン現象」が起きていませんか?
「では、ほかに意見はあるかな?」
「シーン……」
「ほかに意見もないようなので会議を終わります」
このような会議が日々、多くの会社で行われているのではないでしょうか。あまりに日常的なシーンすぎて、何がおかしいのか分かりにくいかもしれません。
多くのリーダーは、会議に参加するメンバーから多様な意見が出ることを期待しています。それなのに、結局は沈黙が会議を支配し、何も意見が出てこない――。こんな「シーン現象」を無視して、そのまま進んでもいいのでしょうか?
実はこういった会議は、組織の心理的安全性が低い証拠です。
心理的安全性が低いから、メンバーは意見を持っていても言い出せないのです。
それはなぜか?
メンバーが恥ずかしがりなわけでも、企画案に賛成しているわけでもありません。それは、あなたの組織が「沈黙を選んだ方が得」な組織だからです。リーダーであるあなた一人が悪いのではなく、長年の蓄積、組織の風土がそうさせているのです。
心理的安全性とは簡単に言うと「自分の考えや意見などを組織のメンバーの誰とでも言い合える状態」。近年は人的資本経営が重要視されています。これは「資本であるすべての人を活かしきる経営」と表現できます。
「シーン……」となる組織と、活発な発言が展開されて多くの社員が活躍する組織では、今後、競争力が大きく異なってきます。元来、日本企業は組織の力や改善の力が優れていました。すべての人の力を活かすことができていたのです。
誰しも、変わることができます。組織だって変われるのです。その一歩として、何か新しい制度などを次々とつくるのではなく、まずは心理的安全性を高め、人間関係の土台を作りませんか、というのが私の提案です。
本書ではさまざまな悪い声かけと、良い声かけを収録しています。どのページから読み始めても発見があるようにつくりました。ぜひご一読ください。
田中弦(たなか・ゆづる)
Unipos株式会社代表取締役社長
1999年にソフトバンクのインターネット部門採用第1期生としてインターネット産業に関わる。ネットイヤーグループ創業に参画後、2001年に経営コンサルティング会社、コーポレイトディレクション入社。2005年、ネットエイジグループ(現ユナイテッド)執行役員。モバイル広告代理店事業の立ち上げに関わる。2005年Fringe81株式会社を創業、代表取締役に就任。2013年3月マネジメントバイアウトにより独立。2017年8月に東証マザーズへ上場。同年に「発見大賞」という社内人事制度から着想を得たUniposのサービスを開始。2021年10月に社名変更し、Unipos株式会社の代表取締役社長として、感情報酬の社会実装に取り組む。
【本書のポイント】
①心理的安全性の高いチームが作れます
②メンバーにどんな言葉をかければいいのか分かります
③想定外の「ハラスメント」を避けることができます
④チームの結束力が高まり、業績が上がります
⑤読んだその日から、実践できます
【売上高132%増】 【離職率27%減】
【現場力アップ】 【ミス、トラブル激減】
たったひと言葉で、組織が生まれ変わる!
JT、アース製薬、信金中央金庫、メルカリ、Sansan……
345社1000万件超の声かけから導き出した結果を凝縮!
一瞬で生産性が上がり、結束力が高まる魔法の言葉とは?
これからの働く環境には、「心理的安全性が欠かせない」。それは、多くのリーダーが理解しています。
しかし!!! 果たして、どんな言葉をかけると心理的安全性は高まるのでしょうか? 現場で不安を抱えているリーダーも多いはずです。
本書を読めば、その答えが一発で分かります。
本書は、従業員同士で評価し合い、互いに報酬を送る仕組み「Unipos(ユニポス)」というサービス上で、実際に交わされた1000万件以上の声かけの中から、最も効果のあった声かけベスト100を紹介しています。
「若手社員にどんな言葉をかければやる気になるのか?」
「チームの結束力を高めるには何と話しかければいいのか」
もうそんな風に迷うことはありません。現場に立ったリーダーが、読んだその日から実践できる、心理的安全性を高める声かけが本書には盛り込まれています。
■声かけ事例はすべて「言い換え」で紹介しています
×大丈夫 → ○つまずいているのはどのあたり?
×大変そうだね → ○頑張っているね
×お疲れ様 → ○今日はどうでしたか?
■心理的安全性に詳しい9人のプロフェッショナルのコラムを収録
仲山考材株式会社代表取締役、楽天グループ株式会社楽天大学学長の仲山進也さん
株式会社ZENTech取締役の石井遼介さん
株式会社エリクシア代表取締役の上村紀夫さん
株式会社人材研究所代表取締役の曽和利光さん
株式会社チームボックス代表取締役の中竹竜二さん
エール株式会社取締役の篠田真貴子さん
オムロン株式会社インキュベーション推進本部シニアアドバイザーの竹林一さん
早稲田大学商学部准教授の村瀬俊朗さん
Zホールディングス株式会社Zアカデミア学長、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部長の伊藤羊一さん
■目次■
第1章 リーダーとメンバーの信頼関係を築く声かけ
第2章 ミス・トラブルを防ぐ声かけ
第3章 突然の退職を防ぐ声かけ
第4章 会社のカルチャーになじむ声かけ
第5章 メンバーを育てる声かけ
第6章 イノベーションが生まれる声かけ
第7章 部門間の衝突をなくす声かけ
第8章 階層を超えて届ける声かけ