英国のトラス首相が10月20日、辞任した。9月6日の政権発足からわずか44日、異例の短命政権となったのはなぜなのか。経済と金融市場が混乱すると、社会全体で閉塞感は高まってしまう。そうならないためにも各国は、英国史上最短に終わったトラス政権の教訓を生かすべきだ。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
財源を国債増発に依存するのは無理だった
9月下旬から、世界の金融市場では英トラス政権の財政政策に対する懸念が急上昇していた。世界で物価が高騰する状況下、減税を行い、その財源を国債増発に依存することには無理があった。重要な点は、財政・金融政策の組み合わせ=ポリシーミックスのリスクが一段と上昇していることだ。トラス首相の辞意によって、それは一段と明確化した。
世界的に、エネルギー資源や食料の価格は高止まりし、一般家庭の電力料金なども上昇している。EUでは天然ガス価格の上限設定をめぐり、イタリアとドイツなどで利害が食い違っている。財政支出を増やして、家計への支援を強化しようとする政治的発想は各国で強くなっている。
今後、米国などでインフレ鎮静化のために金融政策は引き締められる。それによって、世界は景気後退に向かうだろう。
そうした状況下で国債増発懸念が高まれば、9月下旬以降の英国のように金利が急騰し、金融市場が大きく混乱するだろう。その結果、社会と経済全体で不満が膨張し、政治基盤は追加的にぜい弱化する展開が予想される。どう財源を確保し、持続可能な政策を運営するか、これまで以上に各国政府の政策運営手腕が問われている。