女王死去で揺れる「英国」こそ、日本の安全保障の切り札になる理由Photo:The Washington Post/gettyimages

英国でエリザベス女王が死去し、国葬の様子が日本でも大々的に報じられた。これを機に、英国王(または女王)が持つ世界への影響力の大きさを知った人も多いだろう。日本は今、軍事的・経済的に急拡大を続ける中国との関係性においてリスクを抱えているが、安全保障の切り札として、この「英国」との連携を強化すべきだと筆者は考える。そう言い切れる理由を詳しく解説する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

激動のさなかにある英国
その国王が持つ「強大な影響力」

 9月8日に英国の女王エリザベス2世(以下、エリザベス女王)が死去し、19日に国葬が執り行われた。

 9月6日をもってボリス・ジョンソン前首相が退任し、リズ・トラス新首相が誕生した矢先の出来事だった。激動のさなかにある英国には今、世界中から注目が集まっている。

 エリザベス女王の国葬には、各国の王族や首脳が多数訪れ、日本からは天皇皇后両陛下が参列した。外交的な集まりとしては、ここ数十年で最大規模のものとなった。

 各国の要人が国葬に参列する様子は、日本でも大々的に報じられた。日本ではこれまで、英国王(または女王)が持つ世界への影響力についてあまり知られていなかったが、今回の報道を通じて、日本国民はその影響力の強大さをあらためて認識させられた。

 具体的には、英国王は旧植民地国などで構成される「英連邦王国」(コモンウェルス・レルム)の国家元首を兼任している。

 英連邦王国は英国のほか、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ジャマイカなど独立国家15カ国が加盟する国家群である。

 また英国王は、共和制国家を含む50カ国以上の「英連邦」(コモンウェルス)の連帯を象徴する元首でもある(本連載第134回)。

 さらに英国には、英国本島の近隣に「王室属領」が存在する。王室属領であるマン島・チャンネル諸島は英連邦に加盟しておらず、高度な自治権を持つ一方で、英国王を元首とし、外交や防衛を英国に一任している。

 英国王は「君臨すれども統治せず」であり、自国・他国の政治には直接関わらないが、生前のエリザベス女王が世界の4分の1近くの国家・地域に元首として君臨してきたことに変わりはない。その権力はチャールズ新国王に継承され、今後も続いていくだろう。

 そして国際情勢を考えると、英国王が幅広いエリアに君臨する影響は無視できない。